『移動式クレーン』というのはその名の通り、あちこち移動して使用することのできるクレーンのこと。
工事現場や港なんかで動いているところや、道路を移動しているところを見かけることがあるかと思いますが、あの戦車みたいなクレーンを動かすのに必要なのが『移動式クレーン運転士』の免許です。
この免許があれば働き口には割と困らず、給料もそれほど悪くないうえ、取得費用もそれほど掛からない!
転職を考えている人にはお勧めの資格ですが、いったいどこでどうやって取得するんでしょうか?
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移動式クレーン運転士とは?
移動式クレーン運転士の免許は、労働安全衛生法に定められている国家資格で、その名の通り『移動することのできるクレーン』を操縦するための免許です。
『移動することのできるクレーン』といってもピンとこないかと思いますが、ここでいう移動というのは『作業をするときに特定の場所に固定されていない』くらいの意味。
工事現場でよく見るタイヤのついたクレーン車や、トラックの荷台に装備されているクレーンなんかが該当します。
見た目だけなら、トラックに積んだクレーンも、建設中のビルの屋上に置かれたクレーンも、それほど違いが無いように見えますが、実は操作するうえでは別の免許が必要になるんですよ。
クレーンの免許・資格にはいろいろな種類があるのでややこしいんですが、おおざっぱに
- クレーンの設置場所
- つり上げ荷重
で区別されます。
クレーンの設置場所での区別
クレーンの免許は設置場所の区分によって
- クレーン・デリック運転士
- 移動式クレーン運転士
- 揚貨装置運転士
の3つに分かれています。
『クレーン・デリック運転士』の免許で操作することができるクレーンは、ビルの工事現場に設置されているタワークレーンや

工場などに設置される天井クレーン

埠頭などに置かれているコンテナクレーン

などの、解体でもしなければ別の工事現場や工場に移動できないクレーンが該当します。
『移動式クレーン』の方は、トラックや船の上などに設置され、自由に好きな場所に移動することのできるクレーンで、具体的には
- トラッククレーン

- ラフタークレーン

- オルタークレーン

- 浮きクレーン(クレーン船、起重機船)

- 鉄道クレーン
- レッカー車
- ユニック
などが該当します。
要するに
- 装置全体が地面や建物にが固定されていて、他の場所に移動することができない。
→ クレーン運転士の免許が必要 - 装置が台車や船などに設置されていて、好きな場所に移動することができる。
→ 移動式クレーンの免許が必要
ということになるんですが、ややこしいのが船に搭載されているクレーン…。
装置自体は移動式クレーンと同じものが使用され、船と一緒にどこにでも移動することができるんですが、陸地から自船に積み込みを行うことを目的として設置されたクレーンの場合、『揚貨装置運転士免許』が無いと操作することができません!
あいにく揚貨装置運転士の免許は持っていないので、なぜ似たような機械を操作するのに別の免許がいるのか、詳しいことは判りませんが、船の場合は荷物の積み込みで船の重心位置が変化するので専門的な知識が必要になるんでしょうね。
つり上げ荷重での区別
設置場所による区分に加えて、クレーンの最大つり上げ荷重による区分もあります。
こちらは
- 無制限
- 5トン以下
- 1トン以下
の3種類。
クレー・デリック運転士、移動式クレーン運転士、揚貨装置運転士の免許があれば、それぞれの免許に対応するクレーンであれば、どんなクレーンでも操作することができます。
最大つり上げ荷重5トン以下のクレーンの操作には免許入りませんが、操作するためには都道府県労働局長登録教習機関の行う技能講習を修了していなければいけません。
また、最大つり上げ荷重1トン以下のクレーンの場合は、企業等が行う特別教育を受ける必要がありますが…。
実はクレーンの免許や資格というのは、報酬を受けて操作するときに必要になるもので、車でいう二種免許みたいなもの。
さらに、免許取得の義務は操作する人ではなく、雇用者に課せられているので、仮に無免許でクレーンを操作した場合でも、罰せられるのは操作している人ではなく雇用者側になります。
というわけで、ガレージでの車の整備に使う、こんな感じの小型のクレーンを↓
個人で使う分には、法律上免許も講習も不要ですが、危ないのでちゃんと対応する免許や講習を受けておいた方がいいですよ!
移動式クレーン運転士の免許の受験資格
車やバイクの免許には、取得にあたっての年齢制限がありますが、意外なことに移動式クレーン運転士の免許には受験資格はありません!
受験するだけなら年齢、性別、国籍関係なく受験できます。
ただし、試験に合格しても実際に免許が交付されるのは18歳になってからです。
移動式クレーン運転士免許の取得方法
移動式クレーン運転士の免許を取る方法は大きく分けて2つあります。
安全衛生技術センターで
一つ目は、移動式クレーン運転士の免許を管轄する厚生労働省から委託を受けて免許試験を実施している、安全衛生技術センターで学科試験と実技試験を受験する方法。
車の飛び込み試験と同じですね。
本屋さんに行くと移動式クレーン運転士のテキストや過去問を売っているので、学科試験対策は自習でも十分賄えますが、問題は実技試験対策…。
車なら練習用に知り合いから借りることもできるかと思いますが、クレーンとなるとなかなか持ってる人がいないので借りることはできません…。
もちろん、クレーンを扱っている会社にでも勤めていれば、業務の間に練習することができるかもしれませんが、そうでなければ試験前に練習することはほぼ不可能!
そのため、ほとんどの人は“クレーン学校”や“クレーン教習所”と呼ばれる登録教習機関で教習を受けて移動式クレーン運転士の免許試験に臨みます。
登録教習機関で
登録教習機関は車の教習所でいう“公安委員会指定教習所”のようなところ。
ここで実技の講習を受けて修了試験に合格すれば、安全衛生技術センターでの実技試験が免除となります。
実技と並行して学科講習も行われるので、効率よく学科試験対策ができるというのも、登録教習機関に通うメリットですね。
確実に合格したいのであれば登録教習機関に通うべきですが、飛び込み試験に比べるとどうしてもお金がかかるのも、車の免許と同じですね…。
移動式クレーン運転士免許の取得費用
安全衛生技術センターで学科と実技の試験を受ける場合の受験費用は
- 受験手数料
学科試験:6,800円
実技試験:11,100円
で、合計17,900円(2021年12月現在)となっています。
一方、登録教習機関に通う場合は、施設によって違いがあるもの
- 教習料金
学科+実技:13万円前後
実技のみ:10万円前後
あたりが全国的な相場のようです。
移動式クレーン運転士の免許を取得する場合は教育訓練給付金制度が使えるので、申請すればハローワークから訓練経費の20%が給付され、教習費用は2万円ほど安くなる計算になりますね。
これに安全衛生技術センターでの学科試験の手数料が加わるので、だいたい9~13万円前後といったところでしょうか?
安全衛生技術センターで実技試験を受けて1発で合格することができれば、登録教習機関の10分の1の費用で免許を取得することができますが、実技試験は難易度がかなり高いらしく、よほど練習を積まない限り受からないとか…。
学科試験対策は自分でやるとしても、せめて実技教習だけは登録教習機関に通ったほうがよさそうです。
移動式クレーン運転士免許の取得体験記
何回も試験に落ちて安全衛生技術センターに通うというのも話のネタとしては面白いんですが、あいにく最寄りの安全衛生技術センターまでは車で2時間ほどかかるのでそうそう通うわけにもいきません。
確実に一回で免許を取得するため、登録教習機関に通うことにしました。
教習時間や期間は施設によってまちまちですが、どの施設でも
- 学科講習と実技教習
- 学科のみ
- 実技のみ
といった感じで、受講内容を選択できるようです。
学科講習
学科講習は
- 移動式クレーンの種類と構造
- 原動機(エンジンやモーターの構造、電気回路、油圧回路)
- 力学(モーメント、摩擦)
- 法令(労働安全衛生法、クレーン安全規則)
の4科目。
何やら難しそうなことをやっているように見えますが、中学校卒業程度の学力があれば難しいものではありません。
とはいえ、クレーンの免許を取りに来ているのは中学校を卒業して何年も経過しているオジサンばかり…。
教習所の方もそれをよく心得ていて、過去の試験の出題傾向から、合格のために必要な知識のみピンポイントで懇切丁寧に教えてくれます。
実技教習
学科講習に並行して実技教習が行われます。
実技教習の中身は、実際にクレーンに乗り込んでおこなう
- クレーンの基本操作(ワイヤーの繰り出しと巻き取り、ジブの操作)
- クレーンの応用操作(実技試験の練習)
と、クレーンを使わない
- 合図(玉掛け作業員との連携)
実技の時間は毎日1,2時間が割り当てあてられていました。
たった1週間でクレーンを動かせるようになるのか不安でしたが、意外と何とかなるもんですね…。
試験の合格を考えなければ、誰でも3時間ほどの練習で一通りの操作ができるようになるようです。
修了試験
教習の最終日には修了試験が課せられます。
登録教習機関の修了試験は実技のみで、試験科目は
- 玉掛の合図
- クレーン操作
の2科目。
玉掛の合図の試験は、試験官の出す玉掛け作業の合図の意味を答えるというもの。
例えば

試験官が右手をまっすぐ上に挙げれば『呼び出し』の合図。

挙げた手をおろして人差し指で示すのが『これから吊り上げるつり荷、またはつり荷を降ろす場所の指示』の合図。

再び手を挙げて大きく回すと『ウィンチの巻き上げ』の合図。
といった具合に、いろいろな合図があるんですが、試験官の動作に合わせて、その合図がどういった意味のものであるのか、口頭で答えていきます。
これが終わるといよいよクレーン操作の実技試験。
コンクリートを詰め込んだ重さ1トンほどのドラム缶を吊り上げ、クレーンの旋回軸を中心とした120度の扇型の範囲に設置された障害物を回避しながら、指定時間以内に安全につり荷を移動させるというもの↓

試験コースを上から見るとそれほど難しくはないように見えますが、つり荷を前後させたり、障害物を回避するために高さを変えたりしないといけません。
また、障害物の中には『つり荷が壁の向こう側にあって直接見ることができない』なんてシチュエーションを想定したものも…。
もちろん、つり荷と障害物が接触すれば一発で試験は不合格!
さらに、つり荷の底面と地面、あるいは障害物との間隔を常に2mにキープしないといけないと減点になります。
教習初日は『こんなもの1週間練習したくらいじゃクリアできんわ…』なんて思ってましたが、意外と短時間で慣れるものですね。
試験では練習の時よりも短い時間でクリアすることができました!
無事に修了試験に合格できたので、あとは学科試験を受けるだけです。
学科試験の受験
学科試験では
- 移動式クレーンに関する知識:10問(30点)
- 原動機および電気に関する知識:10問(30点)
- 関係法令:10問(20点)
- 移動式クレーンの運転のために必要な力学の知識:10問(20点)
の4科目で、5肢択一のマークシート方式。
試験時間は2時間30分です。
合格基準は
- 各科目の得点が配点の40パーセント以上
- 全科目の得点の合計が満点の60パーセント以上
となっています。
合格率は意外に低くて60%程度。
これだけ聞くとさぞかし難しい試験なのかと思いきや…
- 移動式クレーンの種類
- 並列合成抵抗の計算
- クレーンの法定検査の種類
- 合成モーメントの計算
といった感じで、テキストに書かれていることを覚えてしまえばそれほど難しくもない問題ばかり。
正直なところ、教習所で学科講習を受けなくても、何度か過去問を解いていれば余裕で合格できるような内容です。
受験者がよほどアレな人なのかというと、どうもそんなことはなさそうなんですけどね…。
試験会場には結構若い人も多かったので、たぶんテキストや過去問の内容で試験を舐め腐って受験している人が多いんでしょう。
安全衛生技術センターのHPでは試験に合格した受験者の受験番号が一覧表示されるんですが、私の隣や後ろで受けていた大学を卒業したてと思しき若い人は、ものの見事に不合格だったようです…。
免許交付のための手続き
車の免許の場合なら、学科試験に合格するとその場で免許証を交付してもらえますが、移動式クレーンの場合はそう簡単にいきません。
まず、安全衛生技術センターから学科試験の合格通知が郵送されるまで1カ月程度かかります。
合格通知が手元に届いたら
- 合格通知
- 住民票(1通)
- 免許申請書(試験会場又は都道府県労働局、労働基準監督署に有ります)
- 免許証用の証明写真(24mmx30mm 1枚)
- 免許申請用収入印紙(1,500円分)
- 免許証返送用切手(392円分)
を、自分の住んでいる地区を管轄する労働局に郵送、または持参します。
免許証が届くのはここからさらに1か月後。
安全衛生技術センターでの受験から免許証が手元に届くまでは2カ月ほどかかることを見越しておいてください。
ちなみに、移動式クレーン運転士をはじめとする“労働安全衛生法による免許証”には原則有効期限はないので、車の運転免許証のような更新というものはありません。
さらに住所の記載もないので、免許を書き換えるタイミングは
- 労働案衛生法による免許(潜水士やX線作業主任者など)を追加取得した場合
- 本籍地が変更になった場合
- 氏名が変更となった場合
となります。
これは試験に出ますよ!
免許の使いどころ
『移動式クレーン運転士』の免許があれば、ラフターやオルターといった建設現場で見かけるクレーンのほか、サルベージ会社の大型クレーン船や、トラックをけん引するレッカー車のクレーンの操作ができます。
具体的な仕事でいえば
- 建設作業全般
- 林業
- 重量物の搬送と据え付け
- 港湾での荷役作業
といったところが一般的です。
こういった作業を行う会社では常に求人があるので比較的就職しやすいようですね。
実務経験に寄りますが、免許保有者の初任給は税抜きで25万円~というのが全国的な相場のようです。
経験を積めば昇給も見込めますし、雇用の流動性が高いので、待遇のいい会社を見つければみんな簡単に転職してしまうため、慢性的に人不足…。
経験者のみ採用という会社が多いですが、中には未経験者を積極採用して、会社のお金で免許を取らせるところもあるようなので、免許取り立てで実務経験がないなんて人は、そんな会社を狙ってみてはいかがでしょうか?
クレーンオペレーターの仕事
朝早くから車庫を出て工事現場にクレーン車で乗り付けてクレーンを設置し、一日作業したらクレーンを撤去してまた車庫にもどるというのがおおざっぱなルーチン。
現場でコンスタントにクレーンの作業があればいいんですが、工事の進捗によっては現場に来たはいいものの、丸一日なにもやることがないなんてことも…。
それでも日当はちゃんと出るんで美味しい仕事ではあるんですが、いつ呼ばれてもいいように一日中狭い運転席で待機しておく必要があるので大変です。
急に呼ばれたりすることもあるので、うっかりトイレにも行けません!
夏なんかガラス張りの運転席に座ってないといけないので大変ですよ~。
直射日光を浴びるのでエアコンの効きが悪いですし、作業のないときにはエンジンをかけることもできないので、そもそもエアコンを使うこともできません。
それなら外にいた方がいいってことで、ベテランになると頼まれてもいないのに他の仕事の手伝いや現場の掃除なんかを率先してやってたりします。
こうすると作業の進捗状況や、作業空間の把握ができるので、クレーンの作業がしやすくなるっていうのもあるんですけどね。
工事現場での作業以外にも、クレーン車の整備や調整なんかもオペレーターの仕事なので、ただ工事現場に行って荷物を吊ればいいというほど簡単な物じゃありませんが、建設業のほかのオペレータに比べれば体力もいりませんからね。
繊細さを求められる場面が多いので、個人的には女性に向いてるんじゃないかなんて思ったりします。
まとめ
『移動式クレーン運転士』の免許を取ると、クレーン車やクレーン船といった、あちこち移動することのできるクレーンの操作をすることができます。
免許を取得するためには
安全衛生技術センターで行われる学科と実技の試験に合格する
都道府県労働局長登録教習機関で講習を受けたのちに、安全衛生技術センターの学科試験に合格する
のいずれかの方法がありますが、ほとんどのひとは登録教習機関で講習を受けてから学科試験を受験しているようです。
試験に合格して移動式クレーン運転士の免許を取得すれば建設業や港湾業、林業などで使用しているクレーンのほとんどを使用することができます。
移動式クレーン運転士は常に求人があり、建設業の中でも収入は高め!
しかもそれほど体を動かすこともないので、体力もいりません!
「全くの未経験の職種への転職のために何か資格を取ろうかな?」なんて人は、移動式クレーン運転士の取得を考えてみてはいかがでしょうか?
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