電波行政を主管する総務省は『電波の公平かつ能率的な利用を確保することによって、公共の福祉を増進する』という電波法の目的を達成するため、無線局の監督を行っています。
監督には
- 公益上必要な監督
- 不適法運用等の監督
- 一般的な監督
の3種類があるわけですが、ここでいう監督とは、『国が電波法令に掲載されている事項を達成するために、電波の規整、検査や点検、違法行為の予防、摘発、排除及び制裁などの権限』を指し、免許人や無線従事者は監督に従わなければなりません。
選任された主任無線従事者の業務の一つに『無線設備の操作監督』というものがありますが、これとは異なるものであることに注意しましょう。
今回は、3つの監督のうちの一つ、『不適法運用等の監督』について解説していきます。
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技術基準適合命令
電波法 第71条の5(技術基準適合命令)
総務大臣は、無線設備が電波法第3章に定める技術基準に適合していないと認めるときは、当該無線設備を使用する無線局の免許人に対し、その技術基準に適合するように当該無線設備の修理その他の必要な措置をとるべきことを命令することができる。
無線設備の技術基準はこちらでも解説していますが↓
無線設備から発射される電波の品質が不安定、例えば発射される電波の周波数の幅が規定より広かったり、不要な周波数の放射があるといった場合、他の無線局の業務を妨害してしまう可能性があります。
これを防ぐために総務省令その他の法令で無線設備として免許を受けるためには一定の技術基準をクリアしている必要があり、本免許交付前の検査で確認しているわけですが、無線局の運用中に技術基準をクリアできていないことが発覚した場合には、他の無線局の運用を妨害することを防ぐために、総務大臣(総務省)は該当する無線設備の修理などの措置を行うように命令することができます。
臨時の電波の発射停止
総務大臣は技術基準をクリアできていない無線局が技術基準を満足するように無線設備の修理や調整などを命じることが出来ますが、これに合わせて電波の発射を停止するように命令することも出来ます。
電波法 第72条(電波の発射の停止)
総務大臣は、無線局の発射する電波の質が、電波法第28条の総務省令で定めるものに適合していないと認める時は、当該無線局に対して臨時に電波の発射の停止を命ずることができる。
2.総務大臣は、前項の命令を受けた無線局からその発射する電波の質が電波法第28条の総務省令で定めるものに適合するに至った旨の申出を受けたときは、その無線局に電波を試験的に発射させなければならない。
3.総務大臣は前項の規定により発射する電波の質が電波法第28条の総務省令で定めるものに適合しているときは、直ちに第1項の停止を解除しなければならない。
- 電波法第28条
送信設備に使用する電波の周波数の偏差及び幅、高調波の強度など電波の質は、総務省令で定めるものに適合するものでなければならない。
※ここでいう“総務省令”は「電波法施行規則」や「無線局設備規則」などが該当する。
- 電波の質
周波数の偏差及び幅、高調波の強度など。
停止命令を受けた無線局の免許人は、無線局が再度運用出来るように総務省令に定める電波の質に適合する無線局の修理や調整を行います。
修理、調整が完了して無線局の発射する電波の質が総務省令で定めるものに適合したら、免許人はその旨を申出ますが、総務大臣(総務省)はその申出を受けたならば無線局に試験的に電波を発射させ、電波の質を確認するために臨時検査を行います。
臨時検査の結果、電波の質が総務省令に定めるものに適合していれば、総務大臣(総務省)は直ちに発射停止命令を解除しなければいけません。
無線局の免許の取り消しなど
技術基準適合命令や電波の発射の停止に従わなかった場合、無線局の免許が取り消されることがあります。
電波法 第76条(無線局の電波の取消し等)第1項
総務大臣は、免許人等が電波法、放送法もしくはこれらの法律に基づく命令又はこれらに基づく処分に違反した時は、3月以内の期間を定めて無線局の運用の停止を命じ又は期間を定めて運用許容時間、周波数若しくは空中線電力を制限することができる。
電波法 第76条 第4項(無線局の免許の取消し等)第4項 ※抜粋
4.総務大臣は、免許人(包括免許人を除く。)が、次の(1)から(4)のいずれかに該当するときは、その免許を取り上げることができる。
(1)正当な理由がないのに、無線局の運用を引き続き6月以上休止したとき。
(2)不正な手段により無線局の免許若しくは電波法第17条の許可を受け、又は電波法第19条の規定による指定の変更を行わせたとき。
(3)電波法第76条第1項の規定による命令又は制限に従わないとき。
(4)免許人が電波法又は放送法に規定する罪を犯し罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者に該当するに至ったとき。
- 電波法第17条(変更の許可)
免許人は、無線局の目的、通信の相手方、通信事項、放送事項、放送区域、無線設備の設置場所若しくは基幹放送の業務に用いられる電気通信設備を変更し、又は無線設備の変更の工事をしようとするときは、あらかじめ総務大臣の許可を受けなければならない。 - 電波法第19条(申請による周波数等の変更)
総務大臣は、免許人又は第八条の予備免許を受けた者が識別信号、電波の型式、周波数、空中線電力又は運用許容時間の指定の変更を申請した場合において、混信の除去その他特に必要があると認めるときは、その指定を変更することができる。
正当な理由なく連続して6カ月以上無線局の運用を休止した場合、電波法の目的(電波の公平且つ能率的な利用を確保することによって、公共の福祉を増進すること)を阻害する行為であるとみなされ、無線局の免許の取り消し対象となります。
総務大臣の許可なく、不法な手段で
- 無線局の目的
- 通信の相手方
- 通信事項
- 放送事項
- 放送区域
- 基幹放送の業務に用いられる電気通信設備
- 無線設備の設置場所
- 識別信号
- 電波の型式
- 送信周波数(あらかじめ免許に指定されている場合)
- 空中線電力
- 運用許容時間
を変更した場合や
- 無線局の運用の停止命令に従わなかった場合
- 電波法又は放送法に規定する罪を犯して罰金以上の刑に処せられて、執行が終わった日又は執行が停止された日から2年を経過しない場合
には、無線局免許状を取り消すことができます。
無線局の免許が効力を失ったときの措置
電波法 第78条(電波の発射の防止)
無線局の免許等がその効力を失った時は、免許人であった者は、遅滞なく空中線の撤去その他の総務省令で定める電波の発射を防止するために必要な措置を講じなければならない。
免許がその効力を失った後に免許されていた無線局を運用する(電波を発射する)と無線局の不法開設となり、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます。(電波法第110条)
電波法 第24条(免許状の返納)
免許がその効力を失った時は、免許人であった者は、1箇月以内にその免許状を返納しなければならない。
無線局免許状がその効力を失ってから1カ月以内に免許状を返納しない場合、30万円以下の過料とされています。(電波法第116条)
無線従事者の免許の取消し等
総務大臣は法令に違反する無線局免許状の停止や取消しを行うだけでなく、違法行為を行った無線従事者の免許証の効力の停止や手取り消しをすることも出来るとされています。
電波法 第79条(無線従事者の免許の取消し等)第1項
総務大臣は、無線従事者が下記の(1)から(3)の一つに該当するときは、無線従事者の免許を取り消し、又は3箇月以内の期間を定めてその業務に従事することを停止することができる。
(1)電波法若しくは電波法に基づく命令又はこれらに基づく処分に違反したとき。
(2)不正な手段により免許を受けた時。
(3)著しく心身に欠陥があって無線従事者たるに適しない者。
免許の取り消し処分を受けた場合には処分を受けた日から10日以内に免許証を総務大臣又は総合通信局長に返納しなければいけません。(無線従事者規則 第51条(免許証の返納))
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