無線局を運用する上で備え付けが義務付けられている書類の一つに“無線業務日誌”というものがあります。
“業務日誌”という名前から『何月何日にどこの局と交信した』みたいなことを書く物なんだろうと想像が付きますが、実はこれだけじゃ記載内容は不足していて、法令によって記載事項がかなり細かく規定されています。
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無線業務日誌の記載事項
無線業務日誌の記載事項は、電波法施行規則にその詳細が規定されています。
電波法施行規則 第40条(無線業務日誌)※航空無線通信に関する部分を抜粋
電波法第60条に規定する無線業務日誌には、毎日次に掲げる事項を記載しなければならない。ただし、総務大臣又は総合通信局長において特に必要が無いと認めた場合は記載事項の一部を省略することができる。
(1)航空移動業務又は航空移動衛星業務を行う無線局
①無線従事者(主任無線従事者の監督を受けて無線設備の操作を行うものを含む)の氏名、資格及び服務方法(変更のあった時に限る。)
②通信のたびごとに次の事項(航空機局、航空機地球局にあっては、遭難通信、緊急通信、安全通信その他無線局の運用上重要な通信に関するものに限る。)一.通信の開始及び終了の時刻
二.相手局の識別信号
(国籍、無線局の名称又は機器の設置場所を併せて記載することができる。)
三.自局及び相手局の使用電波の型式及び周波数
四.使用した空中線電力
(正確な電力の測定が困難な時は、推定の電力を記載すること。)
五.通信事項の区別及び通信事項別通信時間
(通数のあるものについては、その通数を併せて記載すること。)
六.相手局から通知を受けた事項の概要
七.遭難通信、緊急通信、安全通信及び電波法第74条第1項に規定する通信の概要(遭難通信についてはその全文)並びに、これに対応する措置の内容
八.空電、混信、受信感度の減退等の通信状態③発射電波の周波数の偏差を測定したときは、その結果及び許容偏差を超える偏差があるときは、その措置の内容
④機器の故障の事実、原因、及びこれに対する措置の内容
⑤電波の規正について指示を受けたときは、その事実及び措置の内容
⑥電波法又は電波法に基づく命令に違反して運用した無線局を認めた場合は、その事実2.次の無線局の無線業務日誌には、第1項(1)に掲げる事項のほか、それぞれ当該各号に掲げる事項を併せて記載しなければならない。ただし、総務大臣又は総合通信局長において特に必要が無いと認めた場合は、記載事項の一部を省略することができる。
(3)航空局
①電波法第70条の4の規定による聴守周波数
②時計を標準時に合わせたときは、その事実及び時計の遅速(3の2)航空地球局(航空機の安全運航又は正常運航に関する通信を行わないものを除く。)
時計を標準時に合わせたときは、その事実及び時計の遅速(4)航空機局
①電波法第70条の4の規定による聴守周波数
②無線局が外国において、あらかじめ総務大臣が告示した以外の運用の制限をされたとき
③レーダーの維持の概要及びその機能上または操作上に現れた得意現象の詳細(4の2)航空機地球局(航空機の安全運航又は正常運航に関する通信を行わないものを除く)
無線局が外国において、あらかじめ総務大臣が告示した以外の運用の制限をされたとき
無線業務日誌へ記載しなければならない事項のうち『通信のたびごとの次の事項』というのがかなり多いです。
これを条文通りに受け取れば、どこかと通信するたびに業務日誌を記載しないといけないことになりますよね?
航空機局の場合、航空管制通信を行うたびに業務日誌に記録を付けないといけないことになってしまいそうです。
これじゃ操縦するよりも記録付けてる時間の方が圧倒的に多くなりそうですが、航空機に設備されている無線局(航空機局、航空機地球局)の業務日誌に関しては『遭難通信、緊急通信、安全通信その他無線峡の運用上重要な通信に関するものに限る。』という文言があるのでの無線業務日誌に記載する事項はかなり省略されます。
これを踏まえたうえで航空機局及び航空機地球局の業務日誌に記載する事項を抜き出すと…
- 無線従事者の氏名、資格及び服務方法
- 遭難通信、緊急通信、安全通信その他無線局の運用上重要な通信に係る
1.通信の開始及び終了の時刻
2.相手局の識別信号
3.自局及び相手局の使用電波の型式及び周波数
4.使用した空中線電力
5.遭難通信、緊急通信、安全通信及び電波法第74条第1項に規定する通信の概要(遭難通信についてはその全文)並びに、これに対応する措置の内容
- 電波法第70条の4の規定による聴守周波数
- 無線局が外国において、あらかじめ総務大臣が告示した以外の運用の制限をされた場合の内容
- レーダーの維持の概要及びその機能上または操作上に現れた特異現象の詳細
といった感じになります。
ここまで省略されると無線従事者の氏名や資格、電波法に規定する聴守周波数以外の部分は
- 遭難通信や緊急通信といった非常通信を行った場合
- 外国での飛行時に運用制限をかけられた場合
- レーダーに特異な現象が発生した場合
でもないと業務日誌を書くことは無さそうです。
ついでに無線業務日誌に記載する事項の規定に引用される法律について解説すると、まず“電波法第70条の4”というのは↓
電波法70条の4(聴守義務)
航空局、航空地球局、航空機局及び航空機地球局(第七十条の六第二項において「航空局等」という。)は、その運用義務時間中は、総務省令で定める周波数で聴守しなければならない。ただし、総務省令で定める場合は、この限りでない。
航空機局が航行中に常に聴守しておかなければならないと定められている周波数を規定する法律で、具体的には無線局運用規則 第146条で
- 航空局
A3E又はJ3Eで別に告示された周波数の電波 - 航空機局
G1D又はG7Wで別に告示された周波数の電波 - 義務航空機局
A3E又はJ3Eの電波で121.5MHz又は当該航空機が航行する区域の責任航空局が指示する周波数 - 航空機地球局
G1D、G7D又はG7Wで別に告示された周波数の電波
と規定されています。
もう少し詳しい話はこちらでしていますので、気になる方はこちらへどうぞ↓
次に電波法 第74条は非常の場合の無線通信を規定しています↓
電波法 第74条(非常の場合の無線通信)
総務大臣は、地震、台風、洪水、津波、雪害、火災、暴動その他非常の事態が発生し、又は発生するおそれがある場合においては、人命の救助、災害の救援、交通通信の確保又は秩序の維持のために必要な通信を無線局に行わせることができる。
総務大臣の命令で『人命の救助、災害の救援、交通通信の確保又は秩序の維持のために必要な通信』を行った場合、後日申請することで国に対して通信に係る実費を請求することができますので、忘れずに無線業務日誌に記録しておかなければなりませんね!
無線業務日誌の保管期限
無線業務日誌の保管期限は次のように規定されています。
電波法施行規則 第40条(聴守義務)第4項
4.使用を終わった無線業務日誌は、使用を終わった日から2年間保存しなければならない。
備付けの省略と備付け場所の特例
冒頭では無線業務日誌は無線局を運用するときに備え付けが義務付けられているなんて書いてますが、実は特例があり、航空局、航空機局、無線標識局、航空地球局、航空機地球局については無線業務日誌の備え付けを省略することができるとされています。
ただし、あくまでも“省略ができる”というだけであって、“備え付け無くてもいい”という訳では無いことに注意しましょう!
無線業務日誌を備え付ける場所も、原則的には無線設備と同一の場所となっていますが、航空機局と航空機地球局については、設備されている航空機の定置場(無線局の開局申請に添付した無線局事項書に記載した定置場のこと)に備え付けておくことができるとされています。
となると『結局飛行機の場合は無線業務日誌書かなくてもいいじゃん!』てな具合に考えてしまいそうですが、あくまで“備え付けを省略したり、航空機の定置場に備え付けておくことができる”というだけで、“業務日誌を書かなくてもいい”なん一言も出てきてませんからね…。
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