航空機の運行に関係する無線通信には
- 航空管制通信
空港や航空路を航行する航空機と航空交通管制機関との通信。 - 運行管理通信
航空運送事業用の航空機とその航空会社との通信。 - 航空業務通信
航空機使用事業用の航空機と運行会社間の通信。

があり、これらの無線通信を行う無線局は設置されている場所や通信の相手方、目的よって呼び名が異なります。
航空無線通信士の試験に関係するところでは
- 航空局
地上に設置され航空機と通信することを目的として開設された無線局。 - 航空機局
航空機に設置され、航空局や他の航空機局と通信するために開設された無線局。 - 航空地球局
陸上に設置され、人工衛星局の中継により航空機地球局と無線通信を行うために開設された無線局。 - 航空機地球局
航空機に設置され、人口衛星局の中継により航空地球局や他の航空機地球局と無線通信を行うために開設された無線局。
といった無線局があります。
今回はこれらの無線局の運用規定について解説していきます。
航空機局の運用
電波法では航空機局の運用について次のように規定しています。
電波法第70条の2(航空機局の運用)
航空機局の運用は、その航空機の航行中及び準備中に限る。ただし、受信装置のみを運用するとき、電波法第52条各号に掲げる通信(遭難通信、緊急通信など)を行うとき、その他総務省令(無線局運用規則第142条)で定める場合は、この限りではない。
2.航空局又は海岸局は、航空機局から自局の運用の妨害を受けた時は、妨害している航空機局に対して、その妨害を除去するために必要な措置をとることが出来る。
3.航空機局は、航空局との通信を行う場合において、通信の順序もしくは時刻又は使用電波の型式もしくは周波数について、航空局からの指示を受けた時は、その指示に従わなくてはならない。
原則的に航空機局は“飛んでいる時”と“飛ぶための準備をしている時”にしか運用することが出来ません。
もちろん遭難通信や緊急通信等は例外ですが、それ以外の不要な通信は出来ないという訳ですね。
条文中に出てくる“海岸局”というのは「船舶局又は遭難自動通報局と通信を行うために陸上に開設する移動しない無線局」のこと。
航空局と海岸局は交通管制を行う無線局なので、航空機局から妨害を受けた場合は、電波発射の停止要請などが出来るとされています。
とはいえ、杓子定規に適用していては無線を能率的に使うことが出来ませんので、無線局運用規則で例外規定が定められています。
無線局運用規則 第142条(航空機局の運用)
電波法第70条の2第1項のただし書きの規定により、航行中及び航行の準備中以外の航空機の航空機局を運用できることができる場合は、次の通りとする。
(1)無線通信によらなければ他に連絡する手段がない場合であって、急を要する通報を航空移動業務の無線局に送信するとき。
(2)総務大臣又は総合通信局長が行う無線局の検査に際してその運用を必要とするとき。
例外とは言ってもかなり限定的な物なので、航空機局が運用できる条件は70条の4の規定と合わせると
- 航空機の航行中
- 航行のための準備中
- 遭難通信や緊急通信等を発信する時
- 無線以外の連絡手段がない場合の緊急連絡を行う時
- 無線局の検査
くらいしか運用できる時間はありません。
運用義務時間
航空機局はかなり限定的な状況でしか運用できないことが分かりましたが、そんな限られた運用条件の中でも“運用義務時間”というものが規定されています。
電波法第70条の3(運用義務時間)
義務航空機局及び航空機地球局は、総務省令(無線局運用規則第143条)で定める時間運用しなければならない。
2.航空局及び航空地球局は、常時運用しなければならない。ただし、総務省令で定める場合はこの限りでは無い。
地上に設置された航空局と航空地球局などは航空管制通信や運行管理通信などに使われるので、常時運用出来るように整備しておかないとマズいですよね。
無線局運用規則 第143条(義務航空機局及び航空機地球局の運用義務時間)
電波法第70条の3第1項の規定による義務航空機局の運用義務時間は、その航空機の航行中常時とする。
2.電波法第70条の3第1項の規定による航空機地球局の運用義務時間は、次の(1)、(2)に掲げる区分に従い、それぞれ当該各号に定めるとおりとする。
(1)航空機の安全運航又は正常運行に関する通信を行うもの
→その航空機が別に告示する区域を航行中常時(2)航空機の安全運航又は正常運航に関する通信を行わないもの
→運用可能な時間
義務航空機局についての説明はこちらから↓
こちらは航空法によって搭載が義務付けられている無線機器なので、その義務航空機局は航空機が飛んでいる間は常時運用しなければいけません。
聴守義務
運用中の航空局や航空機局は法令によって定められた周波数を聴取することが義務付けられています。
電波法第70条の4(聴守義務)
航空局、航空地球局、航空機局及び航空機地球局(電波法第70条の6第2項において「航空局」という。)は、その運用義務時間中は、総務省令で定める周波数で聴守しなければならない。ただし、総務省令で定める場合はこの限りでは無い。
無線局運用規則 第146条(航空局などの聴守電波)
電波法第70条の4の規定による航空局の聴取電波の型式は、A3E又はJ3Eとし、その周波数は別に告示する。
2.電波法第70条の4の規定による航空地球局の聴取電波の型式は、G1D又はG7Wとし、その周波数は別に告示する。
3.電波法第70条の4の規定による義務航空機局の聴守電波の型式は、A3E又はJ3Eとし、その周波数は次の表の左欄に掲げる区分に従い、それぞれ同表の右欄に掲げるとおりとする。
区別
周波数表
航行中の航空機の義務航空機局
(1)121.5MHz
(2)当該航空機が航行する区域の責任航空局が指示する周波数
航空法第96条の2の第2項の規定の適用を受ける航空機の義務航空機局
交通情報航空局が指示する周波数
4.前項の責任航空局及びその責任に係る区域並びに交通情報航空局及びその情報の提供に関する通信を行う区域は、別に告示する。
5.電波法第70条の4の規定による航空機地球局の聴守義務の型式は、G1D、G7D又はG7Wとし、その周波数は、別に告示する。
航空局はその運用義務時間中、要するに常時ですが、A3E又はJ3E型式で別に告示された周波数を聴守しなければいけません。
ここでいう“別の告示”というのは『無線局運用規則第146条第1項等の規定に基づく航空局、航空地球局及び航空機地球局の聴守電波の周波数』のこと。
2021年10月時点では聴守電波の周波数は次のように定められています↓
無線局運用規則第146条第1項等の規定に基づく航空局、航空地球局及び航空機地球局の聴守電波の周波数無線局運用規則 第146条第1項、第2項及び第5項の規定に基づき、航空局、航空地球局及び航空機地球局の聴守電波の周波数を次のように定める。1 航空局(1) 航空局(単側波帯の28MHz以下の周波数の電波を送信に使用するものを除く。)の聴守電波の周波数は、次に掲げるもののうち当該航空局に指定されたものとする。118.0MHz~137.0MHzまでの25kHz間隔の周波数(2) 単側波帯の28MHz以下の周波数の電波を送信に使用する航空局の聴守電波の周波数は、次に掲げるもののうち当該航空局に指定されたものとする。2,932kHz、2,998kHz、3,455kHz、4,666kHz、5,628kHz、6,532kHz、6,655kHz、8,903kHz、8,951kHz、10,048kHz、11,330kHz、11,384kHz、13,273kHz、13,300kHz、17,904kHz
2 航空地球局通信の相手方を国際移動通信衛星機構が監督する法人が開設する外国の人工衛星局とする航空地球局の聴守電波の周波数は、次に掲げるものとする。
- 3,599.0025MHz~3,628.9975MHz
- 4,192.5025MHz~4,199.9975MHz
までの2.5kHz間隔の周波数3 航空機地球局
航空機の安全運航又は正常運航に関する通信を行う航空機地球局の聴守電波の周波数は、次に掲げるものとする。
- 1,525.0025MHz~1,558.9975MHzまでの2.5kHz間隔の周波数
又は
- 1,618.2708335MHz~ 1,625.9791665MHzまでの41.667kHz間隔の周波数
- 121.5MHz
- 航行する区域の責任航空局(管制や交通情報の提供を行う航空局)が指示する周波数
を聴守しなければいけないことになっています。
ちなみに121.5MHzは航空機用救命無線機の使用する航空非常用周波数として規定される周波数です。
このように航空局と航空機局には聴取を義務付けられている周波数がありますが、運用の都合上どうしても聴取が出来ないときもある訳で…。
そういった場合のための例外規定も用意されています。
無線局運用規則 第147条(聴守を要しない場合)
電波法第70条の4のただし書きの規定による航空局、義務航空機局、航空地球局及び航空機地球局が聴守を要しない場合は、次のとおりとする。
(1)航空局については、現に通信を行っている場合で聴取することが出来ないとき
(2)義務航空機局については責任航空局又は交通情報航空局がその指示した周波数電波の聴取の中止を認めたとき又はやむを得ない事情により前条第3項に規定する121.5MHzの電波を聴取することが出来ないとき。
(3)航空地球局については、航空機の安全運航又は正常運航に関する通信を取り扱っていない場合
(4)航空機地球局については次に掲げる場合
①航空機の安全運航又は正常運航に関する通信を取り扱っている場合は、現に通信を行っている場合で聴取することが出来ないとき。
②航空機の安全運航又は正常運航に関する通信を取り扱っていないとき
電波や無線機の性質上、同じ周波数で送信と受信を同時に行うことは出来ませんので、通信中は聴守義務が免除さるほか、管制機関などの指示で聴取の中止を認められる場合なども同様に聴守義務が免除されます。
義務航空機局の運用の中止
義務航空機局がやむを得ない事情によって航行中に無線局の運用を中断する場合は、事前に運用中止を航空局に通知する必要があります。
無線局運用規則 第148条(運用中止等の通知)
義務航空機局は、その運用を中止しようとするときは、次条第1項の航空局に対し、その旨及び再開の予定時刻を通知しなければならない。その予定時刻を変更しようとする時も同様とする。
2.前項の航空機局は、その運用を再開しないときは、同項の航空局にその旨を通知しなければならない。
まとめ
航空機局とは航空機に搭載された無線局ことで、原則的にその航空機の航行中及び準備中にのみ運用することが可能ですが、例外として
- 遭難通信や緊急通信を行う場合
- 無線以外の連絡手段がない場合で、急を要する通報を航空移動業務(航空機局と航空局との間又は航空機局相互間の無線通信業務)の無線局に送信するとき
- 総務大臣又は総合通信局長が行う無線局の検査のために無線局を運用する必要があるとき
は、航行中や航行の準備中でなくても航空機局を運用することが可能です。
航空機局のうち、航空法で一部の航空機に搭載が義務付けられている無線機器を搭載した義務航空機局は、その航行中に常時運用するように義務付けられ、運用中には
- 121.5MHz(航空非常用周波数)
- 航行する区域の責任航空局が指示する周波数
を聴守していなければいけません。
また、義務航空機局が運用を中止しようとするときは、その旨及び再開の予定時刻を航空交通管制を行う航空局に通知しなければなりません。
航空機に搭載された無線局に対して、地上にあって航空機局との通信を行うために開設された無線局を航空局と呼びます。
航空局は常時運用しなければならず、その運用中にはA3E又はJ3Eの型式の電波を聴守することが義務付けられています。
人工衛星を中継して通信を行う無線局のうち、航空機に搭載されたものを航空機地球局といい、航空機地球局と通信するために陸上に開設された無線局を航空地球局と呼びますが、航空地球局も常時運用しなければならないと義務付けられています。
次回は航空機局の通信連絡の相手方や、航空機局の運用に準用される法令について解説していきます。
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