無線設備から発射された電波は空間を四方八方に拡散して伝わるので、場合によっては他の無線局との混信や妨害を起こす可能性があります。
総務大臣に免許された無線局を国家試験に合格した無線従事者、あるいは無線従事者の監督の下に操作するという規定があるのも、限りある電波資源をすべての無線局や放送局が公平かつ有効に利用できるようにすることを目的としているわけですが、この目的を達成するため、電波法では無線局の運用について色々な規定を定めています。
その中の一つが“目的外使用の禁止”です。
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目的とは?
ここでいう目的というのは、無線局免許状に記載されている“無線局の目的”のこと。
どの無線局免許状にも必ず記載されていますが、アマチュア無線の無線局の場合は↓

こんな感じで“アマチュア業務用”と記載されています。
無線局の免許申請手続きの記事でも解説していますが↓
無線局の開局申請の手続きで提出する書類に“無線局事項書”というものがあり、ここに無線局の目的を申請者が記入します。
現在は無線局の目的をアルファベット3文字で表す“無線局の目的コード”というものが定められているので具体的に業務内容を記載する必要はなく、該当する目的コードを記入すればいいことになっていますね。
ちなみに2021年時点で設定されている“無線局の目的コード”には
- 電気通信業務用:CCC
- 公共業務用:PUB
- 放送事業用:BCS
- 実験試験用:EXP
- アマチュア業務用:ATC
- 一般放送用:GBC
- 簡易無線業務用:CRA
- 一般業務用:GEN
- 基幹放送用:BBC
の9種類があります。
この下に通信事項のを区分するコードが124種類設定されていますが、話が長くなるうえに今回のテーマから大きくそれてしまうので、気になる方はこちらをご覧ください↓
目的外使用とは?
目的外使用というのは、文字通り無線局免許状に記載された“無線局の目的”の範囲を逸脱して無線局を使用することです。
無線局は
- 無線局の目的
- 通信の相手方
- 通信事項
- 設置場所(移動範囲)
- 識別信号
- 電波の型式
- 周波数
- 空中線電力
- 運用許容時間
を指定して免許されているため、原則的には指定された範囲を逸脱して運用することは禁止されています。
ただし、一部の例外事項については免許状に記載された範囲を超える運用を許容しています。
無線局の目的、通信の相手方、通信事項についての例外
電波法 第52条(目的外使用の禁止等)
無線局は、免許状に記載された目的又は通信の相手方もしくは通信事項(特定地上基幹放送局については放送事項)の範囲を超えて運用してはならない。ただし、次に掲げる通信についてはこの限りではない。
1.遭難通信
船舶又は航空機が重大かつ急迫の危険に陥った場合に遭難信号を前置する方法その他総務省令で定める方法により行う無線通信2.緊急通信
船舶又は航空機が重大かつ急迫の危険に陥る恐れがある場合その他緊急の事態が発生した場合に緊急信号を前置するその他総務省令で定める方法により行う無線通信3.安全通信
船舶又は航空機の航行に対する重大な危険を予防するために安全信号を前置する方法その他総務省令で定める方法により行う無線通信4.非常通信
地震、台風、洪水、津波、雪害、火災、暴動その他非常の事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、優先通信を利用することが出来ないか又はこれを利用することが著しく困難であるときに人命の救助、災害の救援、交通通信の確保又は秩序の維持のために行われる無線通信5.放送の受信
6.その他総務省令で定める通信
原則的に免許状に記載された目的又は通信の相手方もしくは通信事項の範囲を超えて無線設備を使用してはいけないと定められてはいますが、人命の救助、災害の救援、交通通信の確保又は秩序の維持を目的とする通信であれば、免許状にされた範囲を超えての通信が許容されるということになっています。
『○○信号を前置して』という文言がありますが、これは通信の冒頭に
- 遭難信号:“MAYDAY(メーデー)”又は“遭難”
- 緊急信号:“PAN PAN(パン・パン)”又は“緊急”
- 安全信号:“SECURITY(セキュリティ)”又は“安全”
を宣言することです。
パニック映画や航空事故のドキュメンタリーなんかで耳にすることのあるあの言葉ですね。
また、“非常通信”というのは無線従事者が自分の意志で行う通信のことで、総務大臣の命令のもとに行われる“非常の場合の無線通信”とは区別されます。
遭難通信と緊急通信は状況が似通っているために区別しづらいですが、
- 遭難通信:船舶又は航空機が重大かつ急迫の危険に“現時点で陥っている”場合
(墜落・沈没・座礁・遭難してしまっている場合) - 緊急通信:船舶又は航空機が重大かつ急迫の危険に“陥る可能性がある”場合
(墜落・沈没・座礁・遭難する可能性がある場合)
という違いがあります。
設置場所、識別信号、電波の型式及び周波数についての例外
電波法 第53条(目的外使用の禁止等)
無線局を運用する場合においては、無線設備の設置場所、識別信号、電波の型式及び周波数は、免許状等に記載された所によらなければならない。ただし、遭難通信についてはこの限りではない。
無線局の目的とは少し異なりますが、無線機を運用する際には免許状に記載されている設置場所で、付与されている識別信号を使い、免許された電波の型式と周波数を使用しなければいけないことになっています。
ただし、遭難通信を行う場合には、免許状の記載範囲を超えて無線局を操作することが許容されています。
空中線電力についての例外
電波法 第54条(目的外使用の禁止等)
無線局を運用する場合においては、空中線電力は、次の各号に定めるところによらなければならない。ただし、遭難通信については、この限りではない。
1.免許状等に記載されたものの範囲であること
2.通信を行うため必要最小のものであること
無線局免許状には免許されている無線設備の空中線電力についても記載されていますが、空中線電力に関しては“記載された範囲内で、かつ、通信するために必要最小の電力でなければならない”とされています。
運用許容時間についての例外
電波法 第55条(目的外使用の禁止等)
無線局は、免許状に記載された運用許容時間内でなければ運用してはならない。ただし、第52条の各号に掲げる通信を行う場合及び総務省令で定める場合は、この限りではない。
具体的な運用許容時間が免許状に記載されている場合は、記載された時間外に無線設備を操作することが認められない訳ですが、電波法第52条に掲げられている「遭難通信、緊急通信、安全通信、非常通信、放送の受信その他総務省令で定める通信」を行う場合、運用許容時間外に無線局を運用することが認められています。
まとめ
無線局は原則として免許状に記載された
- 無線局の目的
- 通信の相手方
- 通信事項
- 設置場所(移動範囲)
- 識別信号
- 電波の型式
- 周波数
- 空中線電力
- 運用許容時間
の範囲内で運用しなければいけない訳ですが、人命の救助、災害の救援、交通通信の確保又は秩序の維持を目的とする
1.遭難通信
船舶又は航空機が重大かつ急迫の危険に陥った場合に行う無線通信
(遭難通信を行う場合は通信の相手方や通信事項、設置場所や電波の型式、周波数、空中線電力、運用許容時間など免許状に記載されている無線局の操作範囲のすべてを逸脱することが許容されている)
2.緊急通信
船舶又は航空機が重大かつ急迫の危険に陥る恐れがある場合その他緊急の事態が発生した場合に行う無線通信
3.安全通信
4.非常通信
を行う場合は、免許状に記載された通信の相手方や通信事項の範囲を超えて運用することが出来ます。
また、免許状に記載されている事項はすべて“記載された範囲内で操作”するように定められていますが、空中線電力だけは、“免許状に記載された範囲内で通信を行うために必要最小のものでなければならない”とされています。
次回は目的外通信の例外規定について解説していきます。
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