航空無線通信士の試験対策:法規その7 無線設備の一般的条件

パイロットへの道のり

無線局を開設するためには“無線局免許状”が必要になることは既に説明した通りですが↓

実際に免許状を付与してもらうためには開設する無線局の検査を受けてこれに合格しなければいけません↓

検査の合格基準は無線局の目的や通信の相手、使用する周波数帯等によって異なるため、それぞれも無線設備ごとにここに設定されているわけですが、今回は無線設備として要求されている一般的な条件について解説していきます。

Table of Contents

電波の質

無線局としての条件を設定する上で一番大事なのが電波の品質でしょうね。

これが不安定であれば上手く受信することが出来ず、目的を達成することが出来なくなってしまいますし、場合によっては他の無線局の業務を妨害してしまうことにもなりかねません。

そこで電波法では電波の質について次のように規定しています↓

電波法 第24条(電波の質)

送信設備に使用する電波の周波数の偏差及び幅、高調波の強度等、電波の質は総務省令で定めるところに適合するものでなければならない。

ここに出てくる“総務省令”というのは“無線設備規則”のこと。

無線設備規則第5条~第7条では

  • 周波数の許容偏差
  • 占有周波数帯幅の許容値
  • スプリアス発射又は不要発射の強度の許容値

について定められています。

    1. 周波数の偏差
      通常は水晶発振器などの発振器で電波の元となる信号を発生していますが、どれほど精密に製作された水晶発振器であっても時間の経過により周波数がズレてしまい、発射される電波の周波数は必ず偏差を伴っていることになります。
      これを
      周波数の偏差といいます。
    2. 占有周波数帯幅
      基本的に送信装置から発射される電波は、情報を送るためにAMやFMなどの変調がかけられています。
      変調された電波は周波数に幅を持つことになりますが、この幅は同じ周波数でも変調方式によって異なるのは無線工学の“アナログ通信”で説明した通り。
      「DSB変調は占有周波数帯が…」なんて言う説明をしてますが、仮に1つの無線局が広い周波数の幅を占有することになると、他の多くの放送局が電波を使用することが出来なくなってしまうため、周波数の幅(占有周波数帯幅)は必要最小限に抑え、電波を有効に使用できるようにする必要があります。
      無線設備規則では占有周波数帯幅を「空中線電力の99%が含まれる周波数の幅」と定義しています。
    3. 高調波等の不要発射
      送信設備から発射する電波には設定した周波数の2倍や3倍の周波数成分も含まれ、こういった周波数成分を高調波といいます。
      「高調波の強度等」が定められた値以上に強いと、他の無線局に妨害を与えてしまいます。
      また、高調波成分だけではなく、他の不要な周波数成分も発射している可能性があります。
      このように無線設備から発射される電波のうち、所定の周波数を外れた不要な電波のことを“スプリアス発射”といい、その許容値が定められています。

無線従事者の資格に“特殊無線技士”というものがあり、この資格では“外部の転換装置で電波の質に影響を及ぼさない技術操作”のみが可能となっています↓

“外部の転換装置”というのは無線機に取り付けられているスイッチやツマミの事ですが、“電波の質に影響を及ぼさない技術操作”というのは要するに無線機を操作して周波数を細かく変更する操作ということ。

つまり特殊無線技士の資格ではこういった操作ができない無線機、例えば簡易無線や業務無線のようにあらかじめ周波数や出力、運用モードが設定されている無線設備しか使えないということになります。

特殊無線技士というのはクルマの免許でいう所の限定免許のような物なのですが、その免許で“電波の質に影響を及ぼさない技術操作”のみ可能と規定されているということは、それだけ周波数の偏差やスプリアス発射が電波資源を有効に使う上で障害になるということなんでしょうね。

送信設備の一般的条件

送信設備にとって最も重要なのは、法規に合致する質の電波を発射する事ですが、質の高い電波を発射するためには送信周波数の角度と安定性が肝心。

仮に電源電圧や負荷の変化でベースバンドを生成する水晶振動子の発振周波数が変動してしまうと、発射される電波の周波数の偏差が大きくなって占有周波数帯幅が広がることになりますし、そうなればスプリアス発射も必然的に増えることになります。

これを防ぐため、送信装置に使用される水晶発振回路は、同一の条件の回路によってあらかじめ試験を行って決定されているものであることとされていますし、送信装置の温度を一定に保つ恒温槽を有する場合、恒温槽は水晶発振子の温度係数に応じてその温度変化の許容値を正確に維持するといったものでなければなりません。

また、送信設備に与えられた振動や衝撃によって周波数の変動があっても許容偏差内に維持できなければいけません。

受信設備の一般的条件​

受信のみを目的とする無線設備の場合は無線局免許状は不要で、届け出もなく誰でもいつでも使用可能ですが、送信設備と併設されるような受信設備の場合には、送信設備に影響を与えないような構造でなければいけません。

電波法 第29条(受信設備の条件)

受信設備は、その副次的に発生する電波又は高周波電流が、総務省令で定める限度を超えて他の無線設備の機能に支障を与えるものであってはならない

​受信設備は電波を受け取るだけの設備のように見えますが、実は受信回路と送信回路は構造が似通っているため電波が放射されることがあるのと、回路内を電流が流れるため、無線設備に悪影響を与えることがあります。

そのため無線設備規則では受信設備からの電波の放射についても以下のように規制しています↓

無線設備規則 第24条(副次的に発する電波等の限度)

電波法第29条に規定する副次的に発する電波が他の無線設備の機能に支障を与えない限度は、受信空中線と電気的定数の等しい疑似空中線回路を使用して測定した場合に、その回路の電圧が4nW以下でなければならない。

これ以外にも一般的な受信設備の条件として

無線設備規則 第25条(その他の条件)

受信設備は、なるべく次の(1)から(4)に適合するものでなければならない

(1)内部雑音が小さいこと
(2)感度が十分であること
(3)選択語が適正であること
(4)了解度が十分であること

といったことが定められています。​

航空機搭載無線機の一般的な条件

無線設備はその目的や使用する電波の型式、使用周波数帯によって個別に条件が定められ、これに適合するものでなくてはいけません。

航空機用救難無線機

特に航空機の場合は、墜落や遭難した場合の救助要請をするために救命無線機を搭載する必要がある訳ですが、航空機用救命無線機は非常時でも確実に作動することが求められているため、一般的な無線機とは異なる条件が規定されています。

無線設備規則 第45条12の2(航空機用救命無線機)第1項 ※抜粋

航空機用救命無線機は、次の条件に適合するものでなければならない。

(1)一般的条件

イ.航空機に固定され、容易に取り外せないものを除き、小型かつ軽量であって、一人で容易に持ち運びができること。

ロ.水密であること。

ハ.海面に浮き、横転した場合に復元する事、救命浮機等に係留することができること。
  (救助のために海面で使用するものに限る。)

二.筐体に黄色又は橙色の彩色が施されていること。

ホ.電源として独立の電池を備え付けるものであり、かつ、その電池の有効期限を明示してあること。

へ.筐体の見やすい箇所に取り扱い方法その他注意事項を簡潔に表示してあること。

ト.取り扱いについて特別の知識又は技能を有しない者にも容易に操作できるものであること。

チ.不注意による動作を防ぐ措置がされていること。

リ.電波が発射されていることを警告音、警告灯等により示す機能を有すること。
  (救助のため海面において121.5MHzの周波数の電波のみを使用するものを除く。)

ヌ.別に告示する墜落加速度感知機能の要求に従い、墜落等の衝撃により自動的に無線機が作動する事。また、手動操作によっても容易に無線機が動作する事。(救助のため海面で使用するものを除く。)

ル.通常起こり得る温度の変化又は振動もしくは衝撃があった場合においても、支障なく動作する事。

簡単に纏めると、救命無線機は“本体が派手な黄色や橙色をしていていざと言う時に目につきやすく、完全防水で一人でも持ち運びができる小型軽量の無線機で、特別な知識がなくても誰でも使うことのできる”ものでなければいけないという事。

これに加えて内蔵された電池の有効期限が無線機に明示され、維持管理が容易であるということも要求されています。

有効通達距離

また、航空交通管制に使用される無線設備には有効通達距離というものが定められています。

電波法では↓

電波法 第36条(義務航空機局の条件)

義務航空機局の送信設備は、総務省令で定める有効通達距離を持つものでなければならない。

とあり、具体的な有効通達距離は電波法施行規則に規定されています↓

電波法施行規則 第31条の3(義務航空機局の有効通達距離) ※抜粋

電波法第36条の規定による義務航空機局の送信設備の有効通達距離は、次の(1)~(2)に掲げるとおりとする。

(1)A3E電波118MHzから144MHzまでの周波数を使用する送信設備及びATCRBSの無線局のうち航空機に設置するものの無線設備(以下「ATCトランスポンダ」という。)の送信設備については、370.4㎞(当該航空機の飛行する最高高度について、次に掲げる式により求められるDの値が370.4㎞未満のものにあっては、その値)以上であること。

D=3.8×√ (㎞)

は、当該航空機の飛行する最高高度を(m)で表した数とする。

(2)航空機に設置する航空用DME(以下「機上DME」という。)及び航空機に設置するタカン(以下「機上タカン」という。)の送信設備については、314.8㎞(当該航空機の飛行する最高高度について、(1)に掲げる式により求められDの値が314.8㎞未満のものにあっては、その値)以上であること。

航空無線通信士の試験で出題される傾向が高いのは

  • A3E電波118MHzから144MHzまでの周波数を使用する送信設備
  • ATCRBSの無線局のうち航空機に設置する無線設備(ATCトランスポンダ

の2種類。

この2つは航空交通管制に使用される無線設備で、いずれも有効通達距離は370.4㎞以上でなければいけませんが、航空機ごとに定められた運航規程の最高高度を(1)の式に当てはめた時、D≦370.4㎞となる場合は、搭載されている無線設備の有効通達距離をD以上にしなければいけません。

試しに計算してみたところ、D<370.4㎞となる飛行高度は9,500mなのでこれより低い高度を飛ぶ飛行機の場合はそれほど遠くまで電波が届かなくても問題は無いことになりますが…。

実際のところ航空機搭載用の無線機は航空機ごとの専用品ではなく汎用品なので、規制当局の認可を受けている無線機であればほとんどが370.4㎞以上の有効到達距離を持つのではないでしょうか?

ちなみに370.4㎞は約200海里(200nm)です。

まとめ

無線設備の送信設備から発射される電波には

  • 周波数の許容偏差
  • 占有周波数帯幅の許容値
  • スプリアス発射又は不要発射の強度の許容値

が定められています。

また、受信設備は、“副次的に発生する電波又は高周波電流が、総務省令で定める限度を超えて他の無線設備の機能に支障を与えるものであってはならない”と定められ、その限度は4nW以下と規定されています。

これら以外にも無線設備の開設の目的や送信の相手方、使用する電波型式や周波数帯によって細かい条件が規定されていますが、航空機に搭載する無線設備にも色々な条件が定められています。

航空機搭載用の救命無線機は、航空機の墜落や遭難といった非常かつ過酷な環境でも使用できるよう、本体が派手な黄色や橙色をしていていざと言う時に目につきやすく、完全防水(水密)で一人で容易に持ち運びができる小型軽量の無線機で、特別な知識又は技能がなくても誰でも簡単に使うことができるものでなければならず、これに加えて無線機に内蔵された電池の有効期限が明示され、維持管理が容易であるということも要求されています。

航空交通管制に使用されるA3E電波118MHzから144MHzまでの周波数を使用する送信設備と、ATCRBSの無線局のうち航空機に設置する無線設備(ATCトランスポンダ)には有効通達距離が定められ、その距離は370.4㎞以上でなければいけません。

今回は無線設備の送信設備や受信設備に求められる一般的な条件と、航空機搭載用の送信設備や救命無線機に求められる条件に付いて解説していきましたが、次回はこれらの無線設備に求められる“安全性”について解説していきます。

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