航空無線通信士の試験対策:無線工学その19 航法無線装置

パイロットへの道のり

飛行機という乗り物が誕生したばかりの頃、パイロットが目的地まで飛行するためには地図と方位磁石をコクピットに持ち込み、地上の景色を自分の目で確認しながら飛行する地文航法というナビゲーションが行われていました。

地文航法は日中の天気が良い時なら問題なく飛ぶことができますが、夜間や悪天候で視界が悪い時は地上の様子が確認できないので、正確に目的地にたどり着くことが非常に難しいですし、自分一人で飛んでいるだけならまだしも、他の飛行機が飛んでいると空中で衝突する危険性も…。

こういった危険性を最小限にするため、当初は灯火による発光信号が導入され、これが次第に音声による航空管制通信に発展していくことになります。

とはいえ航空管制通信で飛行機を誘導しようにも、視界が悪ければ誘導する飛行機を見つけることが出来ないので各種のレーダーが開発され↓

夜間や悪天候、さらには目視可能な距離の外側を飛ぶ飛行機の誘導や、自機の周辺を飛ぶ飛行機の回避が出来るようになりました。

一方で、地上からの誘導に頼らずに自機の位置を確認して進路の維持を行うことも要求されるようになり、そこで考え出されたのが電波の性質を利用した各種の無線航法装置です。

過去には船舶用の航法装置であるLORANやデッカといった施設を航空用に使う時代があったようですが、現在はVOR/DMEやGPSが主流になっているようですね。

今回はこれらの無線航法装置と通信衛星を使用した通信システムについて解説していきます。

Table of Contents

VOR(VHF Omni-derectional radio-Range)​

VOR超短波(VHF)帯の108~118MHzの電波を利用した短距離航行用の航法無線装置で、基本的には空港や航空路に設置されています。

飛行機用の電波灯台といったところでしょうかね?

飛行機が離陸したら自由に3次元的な移動が出来ますが、いくら自由に好きな所を飛べるといってもみんなが勝手気ままに飛んでしまうと危なくて仕方がない…。

そこで航空路という飛行機が飛ぶための仮想的な通路が設定されています。

流石に空の上に標識や信号を設置するわけにはいきませんので、飛行機の出発地や目的地となる飛行場や航空路の途中にVORが設置され、パイロットはVORからの電波を頼りに目に見えない仮想的な航空路を飛んでいるわけです。

VORの地上施設は円周上に48基のアルホードアンテナが設置されていて、これらのアンテナから発射された電波を航空機に搭載されたVOR受信機で受信することにより、磁北を0°として時計回りに測定したVOR局からの航空機の方位角を知ることが出来ます。

VORには

  • ドプラVOR(DVOR)
  • 標準VOR(CVOR)

の2種類がありますが、現在は殆どがDVORになっているみたいですね。

VORを使う時は航空機に搭載されたVOR受信機でターゲットとなるVOR地上局の周波数を選択する必要がありますが、地上に複数設置されているVOR局を識別できるように、各VOR局には識別信号(コールサイン)が設定されています。

コールサインはアルファベット3文字が指定され、VOR受信機でモールス符号の音声信号として聴取することが可能です。

後述するDMEと併設されることが多く、VORDMEが併設される場合(VOR/DME)はコールサインの3文字目が“E”になっています。

例えば羽田空港に設置されているVOR/DME(109.400MHz)のコールサインは“HME”(モールス符号:・・・・ -- ・)です。

DVORの原理

現在主流となっているDVORは、こんな感じで円形に複数のアンテナが設置された施設です↓

Google Mapより引用

こちらの画像は中部国際空港に設置されているVORをGoogle mapの航空写真で見たものですが、これを模式的に表示するとこうなります↓

VOR局の中心には、正弦波で振幅変調された位相が一定の基準位相信号発射するキャリアアンテナが設置されています。

キャリアアンテナの周囲に円形に配置された48機のアルホードループアンテナからは基準周波数を30Hzずつ周波数変調して方位によって位相が変化する可変位相信号全方位に発射しています。

航空機に搭載されているVOR受信機でターゲットとなるVORの周波数(基準位相信号の周波数)を選局すると、VOR受信機はVOR局から発射されている基準位相信号と可変位相信号位相差を検出してターゲットのVORからの自機の方位角を知ることが出来るわけです。

DME(Distance Measuring Equipment)​

DMEは二次レーダーの一種で、電波の伝搬速度が一定であるという性質を利用した距離測定装置で、VORと同一の場所に設置されています。

DMEで距離を測定する仕組みを簡単に説明すると

  1. 航空機に搭載されたインテロゲータ(質問装置)から質問信号を送信
  2. DMEのトランスポンダ(応答装置)は、航空機からの質問信号を受信
  3. DMEは50μs程度の遅延時間を経て応答信号を送り返す。

電波の速さは一定ですので、質問信号と応答信号の時間さを測定することにより距離が割り出されるという訳です。

DMEで使用される電波は極超短波(UHF)帯で質問と応答には以下の周波数帯が使用されています。

  • 航空機側
    送信:1025~1150MHz
    受信:962~1213MHz
  • 地上側
    送信:962~1213MHz
    受信:1025~1150MHz

また、DMEの送受信に使用されているアンテナは

  • 機体側:λ/4ブレード型
  • 地上側:多段の垂直ダイポール(垂直偏波の高利得アンテナ

となっています。

ILS(Instrument Landing System)​

ILSは、航空機が悪天候の時でも着陸することが出来るようにするための計器着陸装置で、

  • 滑走路の水平方向の偏りを指示するローカライザー(Localizer)
  • 垂直方向の偏りを指示するグライドパス(Glide Path)(グライドスロープということもある)
  • 滑走路上の着陸地点からの距離を示す
    アウターマーカ(outer marker)
    ミドルマーカ(middle maker)
    インナーマーカ(inner marker)

という装置で構成されています。

ローカライザー

ローカライザーは、滑走路の中心(降下路)から左右(水平方向)のズレを航空機の指示器に表示させる装置。

滑走路の延長上約200mの場所に設置されていて、VHF帯108~112MHzの周波数を使用しています。

航空機が滑走路に進入する際、ローカライザーアンテナに向かって左側が90Hz、右側が150Hzで変調された電波が発射されていて、航空機と滑走路の位置関係で90Hzと150Hzの信号強度が変化することから、航空機が滑走路の左右どちら側に寄っているのかが判断できます。

  • 航空機が滑走路の中心線上にいる場合
      
    90Hz150Hzの電波を同じ強度で受信
  • 滑走路の右側に偏った場合
      150Hzの信号強度が強くなる
  • 滑走路の左側に偏った場合
      90Hzの信号用度が強くなる

ローカライザーに使用されるアンテナはコーナリフレクタアンテナ、八木・宇田アンテナ、対数周期アンテナなどで、出力は約10wです。

Wikipediaより引用

グライドパス​

グライドパスは、滑走路の垂直面内から設定された進入角(降下路)に対する上下垂直方向)のズレを航空機の指示器に表示させる装置。

滑走路の中心から側方に約120~180mの場所にアンテナが設置され、UHF帯328.6~335.4MHzの周波数で出力2~5Wの電波を発射しています

滑走路への着陸進入経路の上側が90Hz、下側が150Hzで変調されているため、90Hzと150Hzの信号強度が変化することにより航空機が進入角度してどちら側に寄っているのかが判断できます

  • 航空機が適性な進入角で進入
      90Hzと150Hzの電波を同じ強度で受信
  • 適性進入角よりも度が低い場合
      150Hzの信号強度が強くなる
  • 適性進入角よりも進入角度が低い場合
      90Hzの信号用度が強くなる

マーカ

マーカは航空機の着陸点までの距離を指示する装置。

周波数75MHz、出力1~3W(アウターマーカは3W)の電波を、指向性が上向きの2素子ダイポールアンテナなどを使用して送信しています。

マーカーの接地場所と変調周波数、識別用のモールス符号は次のようになっていて↓

滑走路に近づくほど識別符号の音声が高く、短くなっていきます。

GPS(Global Positioning System)

カーナビやスマホの位置情報サービスでお馴染みのGPSは航空機にも搭載され、ナビゲーションに使用されています。

元々はアメリカで軍用に開発されたもので、1993年から運用開始。

GPS衛星は地上からの高度約20,000㎞の異なる6つの軌道上に各4基、合計24基が配置され、それぞれの衛星は1周期約12時間で地球を周回しています。

測位には極超短波(UHF)帯の周波数が使用されていて、これらの衛星のうち任意の4基の信号を受信することで、測位用の信号に含まれる時刻情報と軌道情報から地球上のどの地点でも緯度、経度、高度を測定することが出来ます。

インマルサット衛星通信システム​

インマルサットは航法装置ではありませんが、人工衛星を使った公衆通信システムとして多用されています。

インマルサット衛星は、赤道上空約36,000㎞に位置する静止衛星で、電話やデータ伝送などが可能ですが、静止衛星のため北極や南極の極地域では通信できないという欠点があります​。

通信はインマルサット衛星(人口衛星局)を介して、航空機(航空機地球局)と航空地球局(地上固定局)との間で行われ、遭難・緊急通信および公衆通信などのサービスが提供されています。

インマルサット通信で使用される周波数帯は

  • 航空地球局から衛星へ
    アップリンク:6GHz
    ダウンリンク:4GHz
  • 衛星から航空機地球局へ
    アップリンク:1.6GHz
    ダウンリンク:1.5GHz

です。​

試験での出題傾向

航空無線通信士の試験では、今回解説した無線設備のうち、1~2種類の設備についての問題が出題されるようです。

問題は設備の基本的な構成や、使用周波数帯、設置場所(衛星なら地表からの高度)といったものを問うものが多いみたいですね。

無線法規でも今回解説した無線航法設備のうち、「ILS」、「VOR」、「NDB」の法的な定義についての問題が出題されることがあります。

これらの航法設備の法的な定義についても合わせて覚えてしまいましょう↓

まとめ

今回は無線航法設備について解説してみましたが、航空無線通信士の試験で問われるのはあくまで地上に設置されたり衛星軌道上に配置された無線局のごくごく簡単な解説で、パイロットや管制官、あるいは航法設備の保守管理をするオペレーターとしての操作方法には全く触れられていません。

とはいえ、これらの機器を操作するためには基本的な構造や原理を頭に入れておく必要がありますので、ここでしっかりと覚えておけば、この後に続く操縦士や管制官の試験も多少は簡単になるはず?

まぁその時改めて覚えないといけないことが山ほどありそうですが、全くのゼロから覚えるよりはマシでしょうねw

次回は無線機を取り扱う上では欠かすことの出来ない“電源”について解説していきます。

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