航空無線通信士の試験対策:無線工学その18 レーダー

パイロットへの道のり

一般的(?)に航空用レーダーというと戦闘機に搭載される“火器管制レーダー”や、地上配置型の“防空監視レーダー”、はたまた船舶に搭載されているものや、天気予報の“雨雲レーダー”といったものを思い浮かべるかと思います。

あるいはこんな感じのレーダースクリーンをイメージする人もいるかもしれません↓

Wikipediaより引用(PPIスコープ)

『無線の免許とレーダーがどう関係しているのか?』と思う人もいるかもしれませんが、レーダーの機構上電波を発射しないといけないので、施設を管理運用するためには無線の免許が必要になります。

もちろんレーダースクリーンを眺めるだけなら免許は不要ですが、航空機搭載用の気象レーダーなんて物もあったりするので、それなりの装備を搭載した飛行機を操縦する上ではレーダーの知識も必要になります。

Table of Contents

レーダーの概要

実はレーダー(RADAR)というのは、RAdio Detection And Rangingの略称です。

仕組みとしてはレーダーアンテナから周波数の高いマイクロ波の電波を放射し、物体(物標)から反射した電波(反射波)を受信することにより物標の存在、距離、方位などを知るというもの。

世界中でいろいろな種類のレーダーが運用されていますが、物標の探知方法で

  • 単純に自らが発射した電波から物標の位置情報を得るだけの一次レーダー
  • 発射した電波に質問信号を乗せ、これを受信した無線局からの応答電波を受信することで情報を得る二次レーダー

の2種類、使用する電波で

  • パルス波を使用するパルスレーダー
  • 持続波を使用するCWレーダー

の2種類に分けることが出来きます。

パルスレーダー

パルスレーダーは、指向性の鋭いマイクロ波のパルス電波を回転アンテナから物標に向けて放射し、物標からの反射波を受信することで、物標までの距離と方角を探知するレーダーです。

距離は送信パルス波と反射パルス波の時間差を測定することで求めることが出来ます。

レーダー電波を送信するT点から物標R点までの距離をd(m)、電波の速度をc(m/s)、物標までの電波の往復時間をt(s)とすると↓

距離d

で表すことが出来ます。

レーダー方程式

レーダーで物標を探知することのできる距離(探知距離)は“レーダー方程式”により求めることが出来ます。

レーダーで使用する電波の波長をλ(m)、物標までの距離を(m)、送信電力をP1(W)、アンテナ利得をG、アンテナの実行面積をAe(㎡)、物標の実行反射面積をσ(㎡)とすると

なので、受信電力Pr(W)は

で表すことが出来ます。

この式から探知距離dを求めると

となり、探知距離は送信電力の四乗根に比例するということになります。

仮に送信電力を増やすことだけで探知距離を伸ばそうとした場合、探知距離を2倍にするには送信電力を16倍にする必要があるということになりますね…。

これだけ聞くと非効率な気がしないでもないですが、実際には探知距離を伸ばすためには送信電力を大きくするだけでなく、様々な方法が採られます。

パルスレーダーの性能

パルスレーダーの性能を評価する尺度としては次のようなものがあります。

  1. 最大探知距離
    物標を探知できる最大の距離の事を最大探知距離といいます。
    最大探知距離を大きくするためには
      ・ アンテナの利得を大きくする
      ・ アンテナの高さを大きくする
      ・ 送信電力を大きくする(パルス幅を広くしてパルス繰り返し周波数を低くする)
      ・ レーダーの受信感度を良くする(受信機の内部雑音を小さくする)
    といった方法があります。
  2. 最小探知距離
    物標を探知できる最小の距離最小探知距離といいます。
    レーダーの構造上パルス波を送信している間は反射波を受信できないため、最小探知距離を短くするためにはパルス幅を狭くします。
    パルス幅の狭い信号を受信するためには受信機の受信周波数帯域を広くする必要があり、短距離を探知する場合のみパルス幅を狭くするような工夫が必要になります。
  3. 距離分解能
    レーダーから同一方向にある物標を分離して探知することのできる最小の距離の事を距離分解能といいます。
  4. 方位分解能
    レーダーから同一距離にある2つの物標を見分けることのできる最小角度の事を方位分解能といいます。
    アンテナの水平面内の指向性が鋭いほど方位分解能は良くなります。

“最大探知距離を伸ばすために送信電力を大きくしてパルス幅を広げたら最小探知距離が低下してしまう…”という感じで、すべての性能を同時に向上させることは難しいようで、求められる性能によって何らかの機能をトレードオフしたり、バランスを取ったりする必要があるようです。

ドップラー効果

『消防車や救急車が近づいてくるとサイレン音が高く(周波数が高く)聴こえ、遠ざかると低く(周波数が低く)聴こえる』なんて現象を誰もが一度は経験したことがあるかと思いますが、この現象はドップラー効果といいます。

ドップラー効果は音だけで起こる現象ではなく、波の性質を持つ電波や光でも同様に起こり、この現象を利用することで移動する物体の速度を測定することが出来ます。

MTI(Moving Target Indicator)

MTIはドップラー効果を利用して、固定物標と移動物標の識別を行う装置です。

固定物標からの反射波の位相は変化しないことを利用し、固定物標からの反射波を抑圧して移動物標からの反射波のみを検出してレーダースクリーン上に表示するという仕組みで、物標からの反射波を遅延回路に通して1周期遅れをかけて極性を逆にした信号に、元のレーダー信号を加えることで、固定物標からの反射波が無くなり移動物標からの反射波だけが残ります。

航空管制用レーダー

航空管制に使用されるレーダーには

  • レーダーから発射した電波の反射波を受信することで物標を探知する一次レーPSR:Primary Surveillance Radar)
  • レーダーから質問電波を発射し、これを受信した局からの応答信号から物標の情報を得る二次レーダーSSR:Secondary Surveillance Radar)

があります。

一次レーダー

航空管制用には次のような種類の一次レーダーが運用されています。

  1. 航空路監視レーダーARSR:Air Route Surveillance Radar
    ARSRは、航空路を航行する航空機を監視するレーダーで、山頂などの高所に設置されています。
    探知可能な距離は約350㎞です。
  2. 空港監視レーダーASR:Airport Surveillance Radar
    ASRは空港周辺空域における航空機の進入と出発管制のために使用されます。​
    探知可能距離は100~150㎞です。
  3. 空港面探知レーダーASDE:Airport Surface Detection Radar
    ASDEは空港の滑走路や誘導路などの地上にある航空機や車両などの移動体を把握し、地上管制を行うために使用される
    探知可能距離は約5㎞(約3nm)です。

二次レーダー

一次レーダーのARSRやASRTでは、航空機の平面上の位置関係は分かりますが高度や航空機識別情報を取得することが出来ません。

このため、これらの情報を取得するためには二次レーダーSSR:Secondary Surveillance Radar)が使用されます。

SSRは、航空管制用レーダービーコンシステム(ATCRBS:Air traffic control Radar Beacon System)の地上側装置で、一次レーダーのARSRやASRと併用して運用されます。

二次レーダーでは、ATCRBSのインテロゲータ(質問器)から航空機に向けて1030MHzで質問電波を発射されます。

航空機に搭載されたATCトランスポンダ(応答機)が質問電波を受信すると、高度情報や航空機識別情報などの入った応答信号を1090MHzで自動的にATCRBSに送り返します。

送り返された応答信号はATCRBS内で処理され、ARSRやASRのレーダースクリーン上に航空機の位置を示す輝点と共に高度や識別情報が表示されます。

SSRから発射される質問信号にはいくつかの種類があり、これは質問モードと呼ばれます。

質問モードにはモードA、モードC、モードSがあり、それぞれのモードで質問信号が異なっています。

  • モードA:航空機の識別符号
  • モードC:航空機の飛行高度
  • モードS:航空機の識別符号、飛行高度、位置(距離と方位)

軍用機に搭載されているIFF(敵味方識別装置)は質問/応答信号が違うだけで理屈は同じ、というか、IFFを民間機向けに応用したのが現在の2次レーダーです。

ちなみに、平時の訓練中は軍用機も民間用のモードA~Sを使っているそうですね。

航空機衝突防止装置(ACAS:Air Collision Avoidance System)​

航空機衝突防止装置は、航空機に搭載されているトランスポンダを利用した装置で、航空管制用に使われている二次レーダーの仕組みを応用したもの。

一般によく知られる空中衝突防止装置(TCAS:Traffic alert and Collision Avoidance System)は国際民間航空機関(ICAO)がACASとして義されているいくつかのシステムのうちの一つです。

電波法施行規則では航空機局の無線設備であつて、他の航空機の位置、高度その他の情報を取得し、他の航空機との衝突を防止するための情報を自動的に表示するものをいう」と定義されています。

ACASではトランスポンダ決められた時間間隔で質問信号を送信し、他の航空機から受信した応答信号を解析しつつ、他機との位置関係(方位、距離、高度)を監視していて、他機の位置情報を解析した結果危険と判断すると、危険回避のために必要な情報をパイロットに提供します。

ACASにはいくつかの種類があり

  • ACASⅠ:他機の位置情報を提供するが回避情報は提供しない
  • ACASⅡ:他機の位置情報及び垂直方向の回避情報を提供する

といった違いがあります。

すべての航空機にはACASの搭載が義務付けられており、ACASⅠは主にジェネラルアビエーション用途の小型の機体に、ACASⅡは旅客機のような大型機に搭載されています。

電波高度計​

電波高度計は航空機から地面に向けて電波を発射し、反射波が戻ってくるまでの時間を測定して高度を測る装置です。

電波高度計には

  • 低高度用のFM形電波高度計
  • 高高度用のパルス型電波高度計

があり、いずれも4GHz帯の電波を使用しています。

FM形電波高度計は、三角波によって周波数変調された電波を航空機から発射しますが、この電波が地表などで反射されて受信電波として戻ってくるまでの時間は発射電波と受信電波の周波数差(ビート周波数)に比例するため、ビート周波数を測定することで高度を求めることが出来ます。

パルス型電波高度計では、パルス波を発射して反射波が戻ってくるまでの時間を計測することで高度を求めています。

試験での出題傾向

航空無線通信士の試験では

  • パルスレーダーの性能
  • ドップラー効果とMTI
  • 航空管制レーダーの種類と用途
  • 2次レーダー
  • FM形電波高度計

についての問題が出題されるようで、出題形式はいずれも穴埋めになっています。

無線法規でも今回解説したレーダーのうち、2次レーダーの「ATCRBS」の定義についての問題が出題されたりするので、法的な定義についても合わせて覚えてしまいましょう↓

まとめ

レーダーにはレーダー電波の発射方法や、発射する電波に乗せる情報の有無でいくつかの種類に分けることが出来ます。

発射方法で分類すると

  • パルスレーダー
  • CWレーダー

の2種類に、レーダー電波に乗せる情報の有無で分類すると

  • 一次レーダー
  • 二次レーダー

の2種類があります。

対象物からの反射波を受信して対象物の位置や方位を探知する一次レーダーには

  • 航空路監視レーダー(ARSR)
  • 空港監視レーダー(ASR)
  • 空港面探知レーダー(ASDE)

の3種類があり、それぞれの用途に合わせた性能のレーダーが使用されています。

対象物に質問信号を飛ばし、返答によって対象物の高度や識別信号を得ることが出来る二次レーダーは一次レーダーと併設されて飛行中の航空機の識別に使われますが、航空機衝突防止装置(ACAS)のように航空機同士が位置情報をやり取りすることで衝突事故の防止に役立てられてもいます。

似たような名前や用途のレーダーが多いので紛らわしいですが、違いを押さえながら丸暗記していくしかなさそうです…。

次回は飛行機を目的地まで移動させるために使用される“航法無線装置”について解説していきます。

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