航空交通管制通信や国際VHF通信の世界では、前回まとめたアナログ通信方式がメインですが↓
それ以外の通信に関してはデジタル通信方式に置き換わってきています。
この20年くらいであれば、テレビがデジタル放送に置き換わりましたし、もう少し遡ると警察や消防の無線がデジタル無線になってたりしてます。
デジタル通信方式には
- 多重通信が可能
- 雑音に強い
- 誤り訂正が可能
というメリットがあるため、アナログ通信に比べて高速で大容量のデータを送信することが出来るほか、元々のアナログデータをデジタルデータに変換する際に高度に暗号化することが出来るため秘匿性を高められるので、警察や軍事目的での通信に使用されることが多いようです。
ただし、アナログ-デジタル(A-D)変換とデジタル-アナログ(D-A)変換に若干時間がかかるというデメリットがあるため、リアルタイムでの音声通信で遅延が許容できないような場合には好ましくないため、航空交通管制には不向きなようです。
Table of Contents
デジタル通信の変調方式
デジタル通信は連続的なアナログ信号を“0”と“1”の2進数の情報に変換して伝送するという通信方式。
変換方法として代表的なのがパルス符号変調(PCM:Puls Coad Modulation)です。
PMCを原理的なブロック図で表すとこのようになります↓

標本化
入力されたアナログ信号s(t)を時間軸方向に離散化を行う回路で、連続的なアナログ信号をある一定の間隔で抽出します。
デジタル化された信号から元のアナログ信号を再生するためには、アナログ信号の最高周波数fmの2倍の周波数で標本化すればいいことがわかっていて、これをシャノンの標本化定理、または標本化定理といいます。
アナログ信号を標本化する際にアナログ信号と標本化後の信号に重なりが生じることがありますが、これを折り返し雑音(エイリアシング:aliasing)といいます。

量子化
元の信号から標本化された標本パルスのみを取り出し標本値を離散的な値で近似的に表す離散化を行います。

上の例では標本値を0~10の10種類の値の近似値に離散化していますが、近似値に変換することで元の信号との間に発生した誤差を量子化雑音といいます。
量子化によって元々の入力信号と量子化後の階段波形との間に発生した誤差電圧(雑音)は、標本化する周期を短く、量子化するステップの電圧を小さくするほど雑音を小さくすることが出来ます。
パソコン上でアナログ音源をデジタル変換すると、サンプリングレートやビットレートの設定変更をすることでデータサイズや音質が変わったりしますが、サンプリングレートというのは標本化の際の標本の数、ビットレートというのは量子化の際のステップ数だったんですね…。
以外な所でA-D変換の理屈が分かった気がしますw
符号化
量子化された値を2進数の“0”と“1”のパルスの組み合わせに置き換えていきます。

符号化された信号は雑音に強い性質があります。
アナログ信号で扱っていた0~10の値だと雑音が乗った時に違う値に変換されてしまいますが、デジタル信号は信号の“あるなし”で情報を伝達していますからね。
デジタル信号にノイズが乗ったところで信号のあるなしは変わらないので、既定値以下の信号であれば何の影響も受けないという訳です。
符号化にもいくつか種類があり、パルス符号(バースバンド信号)には
- 単極性NRZ
- 両極(複極)性NRZ
- 単極性RZ
- 両極(複極)性RZ
- AMI
といった形式があります。
各パルス符号形式の波形の例と特徴

送信機
符号化された信号を変調して送信します。
ここでの変調方法については後程解説していきます。
受信機
希望の無線信号を受信して復調します
復号化
受信したパルス信号をアナログ値に変換します
LPF
高い周波数成分をカットしてアナログ信号を取り出します
デジタル変調
PMC変調によってアナログ信号がデジタル信号に変換されるということがわかりましたが、変換された信号がそのまま電波になっているかというとそういう訳でもないようで、実際には何らか変調がかけられています。
デジタル通信方式の変調には
- ASK(Amplitude Shift Keying)
- FSK(Frequency Shift Keying)
- PSK(Phase Shit Keying)
があり、搬送波をデジタル変換されたベースバンド信号で変調して電波を発射します。

ASK
ASKは電波の振幅を変化させる変調方式で、デジタル信号の“1”で電波を発射、“0”で電波を止めるというシンプルな変調方式です。

FSK
FSKは電波の周波数を変化させる変調方式で、デジタル信号の“1”では高い周波数、“0”では低い周波数をに切り替わります。

PSK
PSKは電波の位相を変化させる変調方式で、デジタル信号の“1”と“0”が入れ替わるごとに位相が180°入れ替わります。

試験での出題傾向
航空無線通信士の試験でデジタル通信方式出題の傾向としては
- デジタル信号の変調後の波形から変調方式を選択する
- PCM変調で符号化した際の符号列に対応する伝送波形を選択する
といった問題が出やすいみたいですね。
細かい理屈はともかくとして、変調方式の名称と変調後の波形の特徴、PCMの符号化処理時の符号形式とその特徴は最低でも覚えておいたほうが良さそうです。
まとめ
今回はデジタル通信方式のごく基礎的な部分についてまとめてみました。
アナログ信号をデジタル信号に変換する際には
- 標本化
- 量子化
- 符号化
というプロセスがあり、連続的なアナログ信号から断片的なアナログ信号を取り出し、これを2進数の“0”と“1”だけで構成されたデジタル符号に変換する符号化を行います。
符号化には
- 単極性NRZ
- 両極(複極)性NRZ
- 単極性RZ
- 両極(複極)性RZ
- AMI
といった方式があり、符号化された情報は送信機で変調されて電波として発射されます。
デジタル通信での変調方式には
- ASK
- FSK
- PSK
の3つの方式があり、用途に応じて最適なものが選択されるようです。
受信機では受信したデジタル信号を復調して、デジタル信号からアナログ信号に変換し、さらに人の耳に聞こえる信号とするため、高い周波数成分をカットするLPFにかけてスピーカーからアナログで音声が聞こえてくる…というのがデジタル通信の仕組みです。
普段何の気なしに見ているテレビも、実は裏側でこれだけの処理が行われているんですね!
ちなみにデジタル通信はアナログ通信と比較すると信号処理のプロセスが多いため、どうしてもタイムラグが発生してしまいます。
デジタル通信が普及しても航空管制でアナログ音声信号が使われているのは、高速移動する飛行機のコントロールをするためにリアルタイム性が要求されるからなんでしょうね。
次回は出来上がった信号を遠く離れた場所に送るための機器である“送信機”についての解説になります↓
コメント