自衛隊への入隊方法 防衛医科大学校医学科

自衛隊のキャリアパス

自衛隊への入隊方法はいくつかありますが、今回紹介するのは自衛隊内の医務室や病院で勤務する医師(医官)を養成する防衛大学校医学科です。

Table of Contents

防衛医科大学校とは?

防衛医科大学校はその名の通り防衛省の管轄する医療系の大学で、陸・海・空自衛隊で勤務する医官(医師)と看護官(看護師)を養成しています。

大学内には

  • 医学科(医官を養成)
  • 看護科(看護官を養成)
  • 医学研究科(大学院に相当)

の3つの学科がありますが、医学科と医学研究科は独立行政法人大学改革支援・学位授与機構から学位規則に規定する大学の学部及び大学院の博士課程に相当する教育を行う課程として認定されているため、医学科を修了すると学士号を、医学研究科を修了すると博士号を、それぞれ同機構の行う審査に合格することで授与されます。

医学科を卒業後は全国の自衛隊病院に研修医として勤務しながら経験を積み、医師国家試験に合格すると医師免許が取得できます。

と、ここまでは管轄が防衛省というだけで一般の医大とそこまで変わりませんが

  • 入学と同時に防衛省の職員扱いとなるため給料がもらえる
  • 学費は全額免除

という所が大きく違うところ。

このため『医師を目指しているが家庭の事情で学費が捻出できない…』なんて人達に昔から人気の学校です。

防衛大学校医学科への入学方法

防衛大学校医学科へ進学するためには採用試験を受験し、これに合格する必要があります。

防衛大学校医学科の募集受付期間

募集受付期間は例年7月~10月中旬までとなっています。

防衛医科大学校医学科への応募資格

応募資格は日本国籍を有する18歳以上21歳未満の男女で

  1. 高等学校又は中等教育学校卒業者
  2. 1と同等以上の学力があると文部科学大臣が認めた者
  3. 高等専門学校第3学年次修了者

となっています。

防衛医科大学校医学科の採用試験

一般の大学と違い入学すると同時の防衛省の職員(学生)として採用されるため、試験は入学試験ではなく採用試験という扱いになっています。

採用試験は

  • 1次:学力試験及び小論文試験(10月下旬)
  • 2次:口述試験及び身体検査(12月中旬)

です。

学力試験

学力試験の科目は

  • 外国語:コミュニケーション英語Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ、英語表現Ⅰ・Ⅱ
  • 数学:数学Ⅰ、数学Ⅱ、数学Ⅲ、数学A、数学B(「数列」「ベクトル」のみ。)
  • 国語:国語総合(古文・漢文を除く。)、現代文B
  • 理科:物理基礎・物理、化学基礎・化学、生物基礎・生物の3科目の中から2科目選択

回答方法は記述式及び択一式の混合。

募集要項を見るとこれらの試験をほぼ1日かけて受験するようです。

大学受験をする人には有名な話ですが、この試験は毎年良問が出題されることで知られ、予備校や学習塾などが採用試験から問題を引用して模試を作成したりするそうですね。

また、試験が一般の大学よりもかなり早い時期にあるうえ、受験料が無料ということもあり、大学入試の練習を目的として受験する人も多いというのが防衛医科大学校医学科の試験の特徴です。

このため1次試験の志願倍率が例年とんでもなく高くなります…。

過去の試験問題は一般に公開されているため、複数年分の過去問を収めた問題集や、大学受験ではお馴染みの赤本も防衛医科大学医学部の物が出版されているみたいですね↓

自衛隊の採用試験はどれもそうなんですが、自衛隊の組織や任務、入隊した後に就くことになる仕事についての専門的な知識を問われることはまずありません。

そういった専門知識よりも基礎学力の有無を重視するので、受験対策としては一般的な予備校や学習塾に通うのもありでしょうね。

大学入試に特化したスマホアプリなんかでも充分対応できると思います↓

小論文試験

小論文試験はあるテーマについて書かれた論説文を要約したりそのテーマについて自分の考えを45分で800字程度の小論文として記述するといったもの。

この“あるテーマ”は毎年変わるようですが医療系に限らずかなり幅広いジャンルから出題されるようなのでなかなか対策が取りづらいようです。

受験勉強の傍らで色々なニュースを読み、これを分かりやすい形に要約し、自分なりの考え方をまとめる練習をひたすら繰り返すしかないですね。

小論文は1次試験の評価対象にはならないのですが、後程受ける口述試験で内容について質問されるので、自分が書いた小論文の内容をちゃんと覚えておいてください。

それと『なぜそう考えたのか?』を説明できるようにしておきましょう!

口述試験

1次試験に合格すると口述試験と身体検査の受検日程が通知されます。

口述試験となっていますが、内容としては個別面接です。

防衛医科大学校医学科を志願した理由や、なぜ自衛隊を目指すのか?どのような医師になりたいのか?といったことを質問される他、小論文の内容について質問されます。

明るく元気にハキハキと受け答えるのが大事ですが、緊張すると思うので学校の先生や塾の教師にお願いして事前に面接の練習をしておくことをお勧めします。

身体検査

身体検査の項目には一般的な健康診断のように体重や胸囲、血液検査などがありますが、明確な合格基準となる数値が設定されているのは身長(男子150㎝以上、女子140㎝以上)と視力(両側の裸眼視力が0.6以上又は矯正視力が0.8以上)くらいしかありません。

ただし、身長に関しては10代であれば2~3㎝くらい足りなくても『入隊後に伸びる可能性もある』ということで合格にしてもらえることがあります。

いわゆる『見込み入隊』というやつですね。

同じく体重についても合格基準は『身長と均衡を保っているもの』となっているので、余程太りすぎて歩くことすらままならないというレベルでもなければ「受験時は不均衡だけど入隊後に改善される可能性がある」ということで合格にしてくれる可能性があります。

ただし、長期の入院や毎日の通院が必要な持病がある、性病などの感染症を発症していて入隊までに完治の見込みがない、といった場合は身体検査で落とされる可能性があります。

とはいえ病状によっては入隊を認められる可能性もありますので、持病があるという人は一度地方協力本部の募集担当官に相談してみてください。

入学

防衛医科大学校医学科の入隊先

採用試験に合格すると4月上旬に埼玉県所沢市にある防衛医科大学校に入校し、ここで6年間の教育と各種の訓練を受けることになります。

防衛医科大学校医学科学生の待遇

入校と同時に自衛官ではなく防衛省職員(学生)に指定され、毎月“学生手当”という給料が支給されます。

全寮制のため外部からの通学は出来ませんが寮費は無料で、食事も敷地内の食堂で無償で提供される他、制服や作業服、実習時の白衣といった衣服も無料で貸与されます。

学費に関しては防衛医科大学校在学中にかかる費用は全て無償!

このため『医者になりたいけど金銭的な問題からなれない』という人達が殺到し、毎年受験倍率が高くなるわけです。

ただし、学費には償還義務があるので、防衛医科大学校医学科卒業後に一定年数を自衛隊で勤務しない場合は最大で5000万円を国庫に返還しなくてはなりません!

防衛医科大学校医学科の教育・訓練

防衛医科大学校と言っても教育内容は一般の大学の医学部とそうそう変わらないようですが、戦傷医学や災害医療といった特色のある講座や訓練がカリキュラムに盛り込まれています。

将来的に医官として活躍することになるため、防衛大学校の学生のような戦闘訓練は行うことはありませんが、卒業後に紛争地や災害地での医療救援活動に備えた野外演習や、陸上自衛隊の衛生部隊での部隊研修などが行われるとか。

講義や訓練の内容は防衛大学校のHPに色々詳しく書かれているのでこちらを見ていただくか↓

また、防衛医科大学校の学生を主人公にしたマンガがあるのでこういった作品を見ると訓練内容や学生生活をイメージしやすいと思います。

卒業後の進路

防衛医科大学校在学中に本人の希望や適性、部隊側のニーズを元に陸・海・空自衛隊要員として割り振られ、卒業と同時に“幹部候補生たる陸・海・空曹長”に任命されて各自衛隊の幹部候補生学校へ約6週間入校します。

医官の幹部候補生学校での教育期間が他の課程(約1年)と比較すると圧倒的に短いですが、これは医科・歯科幹部が部隊を指揮することが無いため。

戦略や戦術、築城に関する知識は必要ないですし、当然これらに関する演習で経験を積む必要もありませんからね。

防衛医科大学校を卒業した幹部候補生たちは、幹部自衛官としての最低限の知識を身に付けて幹部候補生学校を卒業します。

幹部候補生学校を卒業して医師国家試験に合格すると、2等陸・海・空尉に任命されて防衛医科大学校の附属病院や自衛隊中央病院で初任実務研修を開始。

初任実務研修の期間は2年ほどで、これらの病院にて研修医として勤務しつつ実務経験を積んでいきます。

研修医期間が終わると日本全国に所在する駐屯地・基地の医務室に配属されて、医官として隊員の健康管理やケガまたは病気の治療に従事することになります。

任官拒否問題

『“学費が無料で衣食住が保証され、その上毎月給料まで貰える”という所に惹かれて防衛医科大学校に進んだのは良いものの…。いざ卒業するとなるとやっぱり自衛隊には入りたくない…。』なんて人も毎年一定数要るようです。

また、幹部自衛官として任官後にも理想と現実のギャップなどから2,3年で自衛隊を辞め、市中病院へ転職する人も。

これが国費の無駄遣いに当たるんじゃないかということで防衛医科大学校設立の割と直後から問題視されていたようで、かなり早いうちから学費の償還制度が設けられています。

現在は卒業後9年以内に自衛隊を退職する場合は、卒業までの経費(最高5,021万円)を国庫に返還しなければならないというシステムになっているそうです。

ただ、大規模な市中病院や大手の医薬品・医療機器メーカーも当然これを知っているため、引き抜きするときに学費償還の肩代わりをするなんてところもあるみたいですね…。

防衛医科大学校医学科学生の自衛隊でのキャリア

防衛医科大学校卒業後の階級と役職

初任実務研修が終わると全国各地にある駐屯地・基地の医務室に2等陸・海・空尉で配属され、まずはここで陸・海・空各自衛隊ごとの医官向けの教育を受講しつつ2年ほど部隊での実務経験を積みます。

その後は防衛医科大学校に一旦戻り、専門医としての研修を2~4年ほど受けますが、これが終わるとまた全国各地の自衛隊病院や駐屯地・基地の医務室に戻ります。

この頃にはおおむね1尉か3佐になっているんじゃないでしょうか?

小規模な駐屯地や基地の医務室なら診療班長のポストに就いて他の医官や看護官を纏めるポジションといったところですかね?

ここでまた数年間の経験を積んだら、今度は防衛医科大学校の医学研究科で先端医療の研究をしたり、国内や海外の医科大学の大学院、あるいは米軍の医官向けの専門課程に留学して専門分野の見識を広めていくようです。

幹部自衛官が将に上り詰めるための事実上の必須課程に指揮幕僚課程や幹部高級課程がありますが、これらの課程は医官を対象とはしておらず、医官の場合は将官にまで上り詰めるのが難しいようです。

ただ、医官の場合はこれらの課程の相当するのが医学研究科や、国内外の大学への留学などになるそうで、医官のトップを目指す場合はこれらの課程を履修するのが必須になるんだとか。

その後は再び自衛隊病院や駐屯地・基地の医務室に戻り、自衛隊病院なら標榜する科の長へ、駐屯地・基地の医務室ならそこの隊長のポストに就くようです。

大体この辺りで2佐クラスですかね?

そこからさらに上を目指すと1佐で各方面隊の首席衛生官や防衛医科大学校の教授、将補で各自衛隊病院長といったポストに就くといった感じでしょう。

ちなみに医官としての頂点は自衛隊中央病院の副院長か防衛医科大学校の幹事で将の階級が与えられますが、殆どの人はそこまでたどり着くことはありません。

定年まで勤務する人も少なく、学費の償還義務のなくなった30代後半~40代後半あたりで退職して市中病院へ転職したり、あるいは個人で開業したりするといった人が多いようです。

または自衛官から防衛省の技官に転身して、防衛医科大学校の教官や講師になる人もいるようですが、この場合は防衛医科大学校の医学研究科での研修中に一本釣りのような形でヘッドハンティングされるとか。

自衛隊の医師としての臨床経験

定年前に自衛隊を去ってしまう医官が多いのは『自衛隊では臨床経験が積みづらいから』だと昔から言われています。

医師としてのスキルを語るうえで避けて通れないのが臨床経験だと思うんですが、自衛隊の医官というのはどうしても市中病院の医師に比べると臨床経験が乏しくなってしまう…。

そりゃ“健康で頑丈な人達”で構成された自衛隊の中で、屈強な自衛官たちを相手にしている病院での勤務ですからね…。

私の現役時代は毎年の健康診断以外だと、風邪をひいた時か訓練中のケガ、あるいは海外派遣前の予防接種の時くらいにしか医務室に用事はありませんでした。

恐らく私に限らずほとんどの自衛官が似たようなものでしょうし、仮にこれ以外の病気や大きなけがで医務室に担ぎ込まれたとしても、設備の関係上応急処置以上のことはできず、一般の病院へ転送されることになります。

こういった理由から『自衛隊にいてもスキルアップが望めない』と考える医官が多く、自衛官としてではなく医師としての人生を考えて早期に退職する人が多いようです。

私が現役の時に仲の良かった医官も『せっかく医師免許取って医者になったのはいいけれど、経験値がないから定年しても医者はやりたくない…』なんて言ってましたね。

せっかく大金を投じて養成した医官に辞められてしまうのはまずいと防衛省が思ったのかどうかは分かりませんが、現在は過疎地域の医療機関と連携して医官の派遣を行っていたり防衛医科大学校附属病院や自衛隊中央病院の民間人の利用を解禁するなどして、医官でも市中病院と同等の臨床経験を積めるようにしているそうです。

先ほど紹介した私と仲の良かった医官ですが、この話をした翌年に立川の国立病院機構災害医療センターの救急救命科に2年間の出向を命じられ、かなりの経験を積むことが出来たようです。

ちなみに腕やセンスのいい医官だとこの派遣や研修のタイミングでヘッドハンティングされることも多いらしく、中には学費の返還を肩代わりしてくれる医療機関まであったりするそうですね。

とはいえただでさえ少ない医官がこうして外部に派遣されてしまうと自衛隊内の医療体制が心配になりますが、こういった場合は穴埋めで外部医療機関の医師が応援で派遣されます。

とはいえ派遣されるのが専門医とも限らない…。

肩を脱臼して医務室に行ったら丁度その日は外部の病院の先生が診察してくれる日だったんですが、その先生はレントゲンフィルムを5分くらい眺めた挙句『私は専門が循環器内科なので写真の見方がよくわかりませんが、多分肩脱臼してると思いますけど…。どう思います?』なんて怖いことをおっしゃる…。

こんなこともあったので本当ににヤバい時は医務室に行かないようにしてました…。

まとめ

  • 防衛医科大学校は自衛隊で活躍する医官(医師)を養成するための学校。
  • 入学と同時に防衛省職員に任命されて毎月給料がもらえる。
  • 6年間の教育課程は学費無料なうえ衣食住も保証されているが、卒業時に自衛官になることを拒否すると学費を返納しなければならない。
  • 卒業後は曹長として自衛官に任命され、医師国家試験に合格すると2尉に昇任する。
  • 2尉に昇任した後は部隊と教育機関を行き来しながら経験を積み、最終的には将まで昇任可能?
  • ただし、防衛大学校と違い制服組トップの幕僚長のポストは狙えない。
  • 医官としての勤務中は市中病院に比べるとどうしても臨床経験が乏しく成りがちなため、部外研修が多い。

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