自衛隊への入隊方法 海上・航空自衛隊航空学生

自衛隊のキャリアパス

アイキャッチは航空自衛隊のパイロット候補生が一番初めに乗ることになる初等練習機のT-7という飛行機(Wikipadiaより引用)。

一般的に自衛隊のパイロットになるためには

  • 航空学生
  • 防衛大学校
  • 一般幹部候補生

のいずれかの課程に入隊する必要がありますが、今回はそのうちの航空学生について解説していきたいと思います。

Table of Contents

航空学生とは?

自衛隊の隊員募集を任務の一つとしている自衛隊地方協力のHPによると、航空学生は、

高校卒業又は中等教育学校卒業者(見込みを含む。)、高専3年修了者(見込みを含む。)及び高校卒業と同等以上の学力があると認められる男女を対象にした、海上自衛隊・航空自衛隊のパイロット等を養成する制度

で、海上自衛隊及び航空自衛隊のパイロットの約70%が航空学生の出身者と言われています。

諸外国の空軍組織ではパイロット候補生は大学卒業後、あるいはそこからさらに士官学校を卒業したのちにパイロットとしての訓練を受けるのですが、航空学生の場合は比較的早い時期から訓練を開始するため、諸外国の同年代のパイロットと比較すると飛行時間が多くなるという傾向にあるようです。

航空学生になるには?

海上自衛隊・航空自衛隊の航空学生になるためには航空学生採用試験を受験し、これに合格する必要があります。

航空学生の募集受付期間

募集は例年7月から9月上旬にかけて行われます。

志願書提出時に海上自衛隊か航空自衛隊を本人の希望により決定します。

志願倍率は航空自衛隊が高めです。

航空学生の採用人数

航空学生の募集定員は

  • 海上自衛隊:男子約74名、女子若干名
  • 航空自衛隊:約70名(男女の区分なく決定)

となっていて、海上自衛隊の方が若干採用人数が多くなっています。

定員が“約”とはっきりしませんが、これは定員よりも多めに採用するから。

大体1割増しくらいなので、実態としては

  • 海上自衛隊:男女わせて90人前後
  • 航空自衛隊:80人前後

が現実的な採用人数になるのではないかと思われます。

ちなみにもう少し多めに採用しても、教育隊に来なかったり、入隊式前にドロップアウトしたりする人も一定数いるので、入隊式では募集定員±3人くらいになったりするんですけどね。

航空学生の応募資格

航空学生を受験できるのは

日本国籍を持つ

  • 海上自衛隊:18歳以上23歳未満
  • 航空自衛隊:18歳以上21歳未満

の男女。

応募に当たって資格は必要ありませんが

  • 高校卒業
  • 中等教育学校卒業
  • 高専3年次修了者
  • 高校卒業と同程度以上の学力があると認められるもの

といった感じで『高校卒業と同程度と認められる学歴』が必要になります。

という訳で、仮に中卒でも“高等学校卒業程度認定試験(いわゆる大検)”に合格していれば受験出来ますし、『家庭の事情で海外の高校を卒業した』という人でも何らかの学力証明があればこちらも問題なく受験可能です。

ちなみに卒業または修了に関しては“見込み”も含まれるため、在学中に受験して航空学生への入校までにそれぞれの学校を卒業、または高専3年次を修了していれば問題なし。

ただし『高校卒業見込みで受験して航空学生に合格したものの、自己都合で高校の卒業が出来なかった』という場合は仮に試験に合格していても採用取り消しになる可能性がありますので気を付けましょう!

航空学生の試験

試験は1~3次まであり

  • 1次:筆記試験、適性試験
  • 2次:口述試験、航空身体検査、適性試験
  • 3次:航空身体検査(海上)、操縦適性検査及び医学適性検査(航空)

となっています。

筆記試験

筆記試験の問題は海上・航空で共通です。

試験科目は

  • 国語:国語総合、国語表現
  • 数学:数学Ⅰ、数学Ⅱ、数学A
  • 英語:コミュニケーション英語Ⅰ・Ⅱ、英語表現Ⅰ・Ⅱ

までが必須科目。

これに加えて選択科目として

  • 世界史A
  • 日本史A
  • 地理A
  • 現代社会
  • 倫理・政治経済
  • 物理基礎
  • 化学基礎
  • 地理基礎

のうちから1科目を選択するというもの。

回答方法は数学の一部が記述式になっている他はマークシート方式となっています。

パイロット候補生の選抜試験というとかなり難易度が高そうですが、意外にも同じく高卒程度を対象にしている一般曹候補生の試験とそれほど変わらないレベルなんだとか。

ただし、数学については択一式に加えて記述式の問題もあるので、単純に答えを出すだけでなく回答に至った思考過程についてもチェックしているようです。

加えて試験時間に対する問題量が他の採用試験と比べてかなり多めになっているので、単純な数学の能力だけでなく課題処理能力も含めて先行しているようですね。

試験対策としては、応用的な問題への対策よりも、基礎的な公式や定理を確実に使いこなせるようにしたほうが良いかもしれません。

航空学生の過去の試験問題も数年分をまとめたものが出版されているので、これで出題傾向を把握しておくと対策が取りやすいかもしれません↓

適性試験

適性試験は一般的な知能検査や作業適正検査に加え、飛行機を操縦する上で必須となる空間把握能力を確認するための試験です。

実は全く関係ない試験の待ち時間に暇つぶしということでやらされたことがあるんですが、これが結構面白くいい暇つぶしになった記憶があります。

たしか方位計の北(N)だけが記されたイラストや↓

姿勢指示器のイラスト↓

から推測される自機の進行方向や飛行姿勢を答えるというもの。

こんなイラストをA4の用紙に40個くらい描かれたものを渡され、制限時間内にいくつ回答できるか確認するといった感じの試験だったような?

試験対策が難しいですが、コンパスと飛行機の針路の関係、ジャイロと飛行機の姿勢との関係性を一瞬でイメージ出来るようにトレーニングすれば案外簡単に答えることが出来ます。

紙飛行機を作ってイメージトレーニングしたり、フライトシミュレーターで飛行機を飛ばしたりするとすると良いかもしれませんね。

これに加えて機体を外から見た状態で自分が飛ばしている飛行機の飛行姿勢や進行方向を答えるという試験もあるようなので、ラジコン飛行機やドローンでトレーニングするというのもいいかも↓

口述試験

2次試験にある口述試験は一般的な個人面接で、自衛隊や航空学生への志望動機、自衛隊に入ってからの目標なんかを聞かれます。

ここで求められるのは『聞かれたことに対して嘘偽りなく素直に回答できるか?』というところ。

2次試験の段階ではパイロットとしてではなく、自衛官として相応しいかどうかを見極める面接になると思うので、明るく、元気よく、ハキハキと受け答えしましょう。

身体検査

身体検査は国土交通省が規定する航空従事者向けの“航空身体検査”に一部準ずる基準が設定されています。

合格基準を一部抜粋すると…

身長:158~190㎝

肺活量:男子3,000㏄以上(女子2,400㏄以上)

血圧:上が100~140、下が50~90

脈拍:1分間に100以下

視力:遠距離裸眼視力0.1以上、矯正1.0以上

といった感じで、自衛官候補生や一般曹候補士に比べると合格基準が厳しめです…。

この他にも色々と基準がありますが、詳しいことは地方協力本部の募集担当官に問い合わせてください。

特に視力に関してですが、視力矯正手術を受けていると不合格になりますので、手術を検討している人は地方協力本部の募集担当官と相談してみましょう!

また、一部の既往症を持っていても症状次第で合格することもあるため、心配な方は一度募集担当官に相談してみてください!

3次試験

2次試験までの試験内容は海上自衛隊と航空自衛隊で共通ですが、3次試験は海・空で試験内容が異なります。

海上自衛隊

海上自衛隊航空学生の3次試験では航空身体検査の一部項目についての追加検査と、脳波の測定が行われるそうです。

この脳波測定が“薄暗い部屋で30分近くベッドの上に横たわって安静に”した状態で行われるそうですが、kの間寝てはいけないそうで、睡魔と戦うのが大変なんだとか。

とはいえ眠気覚ましに興奮作用のある(コーヒーや眠眠打破など)ものを飲むと、変に興奮して脳波に影響が出るようなので、ひたすら我慢するしかないようですね…。

航空自衛隊

航空自衛隊航空学生の3次試験では、実際に複座型の練習機を操縦しての操縦適性検査と面接試験、航空身体検査を受験します。

操縦適性検査はあいにく受検したことがありませんが、色々と調べてみると…。

  1. 上昇旋回(左右)
  2. 上昇飛行から水平飛行に移行
  3. 普通旋回
  4. 急旋回
  5. 降下飛行姿勢へ移行
  6. 降下旋回(左右)
  7. 降下飛行から水平飛行に移行

といった操作を実機でやるみたいですね。

流石に飛行機の操縦経験を持つ受験者はいないので、試験前に一通り機体や操縦についてのレクチャーがあります。

実機を使っての試験のため事前の試験対策がほぼ不可能ですが、フライトシミュレーターで練習して飛行機の動きやそれに連動する計器の動きをイメージ出来るようになると試験が楽になるかもしれませんね。

ちなみにこの適性検査では

  • 教えられたとおりの操作が出来るか?
  • 出来なかったとしても技量向上の見込みが有るか?

といったことを確認しているため、3次試験の期間で2回操縦することが出来ます。

仮に1度目が満足の行く結果でなくても、2回目で試験官の指示やフォローを受け入れて修正できれば問題ないようですね。

操縦適性試験の間には面接試験が行われます。

面接では“飛行機を操縦してみた感想”や“試験を受けた感想”といった内容の他に、適性検査の前にアンケートへの回答に対して

  • なぜそう回答したのか?
  • なぜそう思ったのか?
  • そう思うにいたった経験や原因はあるか?
  • その経験をした時はどう思ったのか?

なんてことを聞かれるようです。

恐らく課題解決の処理速度やパニック体制を見極めるための面接なんでしょう。

対策が取りづらいですが、面接の前にアンケートの内容と回答を書き出し、一通り整理しておけば面接を受けやすくなるのかもしれません。

志願先の変更

不幸にも航空自衛隊航空学生の3次試験に不合格となっても悲観することはありません!

3次試験不合格の理由が“操縦適性が無いと判断された場合”のみになりますが、航空身体検査や面接に合格していれば、志願先を航空自衛隊から海上自衛隊に変更する事も出来たりします。

もちろん海上自衛隊側の合格者が少ない場合や、受け入れに余裕がある場合に限っての話ですので、確実なことは言えませんが…。

入隊

航空学生の入隊先

航空学生採用試験に合格すると

  • 海上自衛隊:山口県下関市の海上自衛隊小月教育航空群小月教育航空隊
  • 航空自衛隊:山口県防府市の航空自衛隊第12飛行教育団航空学生教育群

へそれぞれ入隊することになります。

入隊は毎年3月下旬から4月上旬です。

航空学生の教育・訓練

2年間の航空学生課程では飛行訓練は行わず、飛行機を操縦するために必要な基礎知識や基礎理論、自衛官としての基本的な知識やパイロットとしての職業倫理といったものを学ぶようです。

具体的には

  • 自衛官として必須の自衛隊法や服務一般
  • 航空機の操縦に必須となる英語、数学、物理、航空力学、電子理論、航空英語、航空生理など
  • 幹部自衛官に必要な防衛学(諸外国で言う軍事学)
  • 哲学、心理学などの一般教養

等について学ぶようです。

また、これらの座学以外にも基本教練や武器訓練、野外演習といった訓練の他、体力づくりのための各種トレーニングを行う体育、勤務時間外の部活や同好会活動などもあります。

これらの座学や各種訓練を終えて航空学生を卒業するといよいよ本格的な飛行訓練が開始されます。

航空学生出身者の階級

航空学生に入隊すると同時に2等海士または2等空士に任命され、その後は

  • 採用から約6か月後:1等海士または1等空士
  • 採用から約1年後:海士長または空士長
  • 採用から約2年後:3等海曹または3等空曹

といった具合に順次昇任していき、航空学生卒業後は“飛行幹部候補生たる3等海曹または3等空曹”に任命され、その後は順次規定年数に応じて2曹、1曹、曹長と昇任。

一連の飛行訓練を修了すると幹部候補生学校に入校して幹部自衛官としての勤務に必要な知識、技能を身に付けて3等海尉または3等空尉に任命され、全国各地の部隊に配置されます。

航空学生出身者は若くして幹部に昇任できるんですが、幹部の中でのヒエラルキーは防衛大卒>一般幹部候補生>航空学生≧部内幹部候補生といった感じ?

航空学生出身者はパイロットとして部隊に配置されるとあまり地上での部隊管理のポストに就けられることが無いため、防衛大や一般幹部候補生、場合によっては部内幹部候補生の出身者に比べると昇任しづらいです。

なので後から部内幹部課程を卒業した同い年の隊員に昇任で抜かれたりするなんてことも無い話ではない。

殆どの人は2佐で定年を迎えるか、定年退職の日に今までの功績をたたえて1佐に特別昇任するといった感じですかね?

もちろん本人の努力次第で幹部学校の高級課程に進み、1佐や将補を目指すことも不可能ではないものの、自衛隊が航空学生出身者に求めているのは『部隊指揮官や幕僚としての計画立案・遂行能力』ではなく『パイロットとしての職人的な技能と作戦遂行能力』なんですよ。

だからこそ定年間際まで地上配置が殆どなく、在職中はひたすら飛ぶことになるわけですが、逆に言えば『地上勤務したくない』『ひたすら空を飛んでいたい』という人にはまさに天職なのかもしれません。

航空学生出身者のキャリア

航空学生はパイロット候補生を養成するための課程であるため、基本的に卒業後の進路はほぼパイロットですが、海上自衛隊航空学生の場合はパイロットだけでなく、対潜哨戒任務や救難任務で任務機に乗り込んで現場指揮を執るタクティカルコーディネーター(戦術航法士:TACCO)の養成も行っているため、必ずしも全員がパイロットになれるという訳でもないようです。

もちろんTACCO志望で海上自衛隊の航空学生に入隊する人もいるみたいですけどね。

また操縦訓練中に適性が無いと判断された場合は地上職に配置されることもあります。

実際に自衛隊にいた頃の上司や同僚にもそういう人がいましたが、大体は身体的な理由からでした。

とある整備部隊に小隊長として着任した方も身体的な理由から地上職配置になった一人なんですが、なんでも戦闘機パイロットの養成課程で緊急脱出訓練を行った時に心肺停止になってしまったそうで…。

詳しく検査してみると心臓の機能に問題があることが判明し『これ以上の飛行訓練は生死にかかわるということで地上勤務に配置されることになった』なんて事を笑いながら話してくれましたが、多分これくらいのメンタルの人じゃないとパイロットにはなれないのかもしれません…。

一方身体的な問題ではなく、技量やセンスに問題がある場合もパイロットコースから外されますが、この場合は地上職ではなくナビゲーターや警戒管制機のオペレーターとして機上勤務に回されることもあるようです。

そして運よくパイロットになれたとしても、戦闘機パイロットは身体的な負担も大きいので、訓練で体を壊して戦闘機から輸送機に配置換えになったり、地上職に配置されることも。

航空身体検査も定期的に受験し、これに合格しないとパイロットとしての勤務は出来ないので、パイロットの方々は常に節制してトレーニングに励むというストイックな人が多いです。

また、昇任の項目で触れたとおり、他の幹部候補生課程の出身者に比べると昇任スピードが遅いうえに機種によっては任務が過酷なので、定年前に退職して民間のエアラインに転職するという人もちらほらいます。

今は新型コロナの影響で需要が低迷していますが、将来的には世界的なパイロット不足が予想され、数年前までは世界中のエアラインでパイロットの争奪戦が行われていたこともあり、自衛隊も国土交通省の要請で転職希望のパイロットをエアラインに紹介してるみたいですね。

搭乗している機種次第ですが、一応自衛隊のパイロットも事業用操縦士免許を取得し、航空無線通信士の資格も持っているため、転職しても比較的短時間の訓練で機種限定免許を取得できますから、医官と並んで自衛隊の中でも民間でつぶしの効く職種の一つではあります。

まとめ

今回は航空学生の採用試験や訓練、卒業後のキャリアについて解説してみました。

航空学生は自衛隊パイロットになるため、あるいは日本国内でタダで飛行訓練を受けられる数少ないコースの一つとして昔から志願者の多い人気の高いコースです。

最近は少子化の影響もあって志願者自体が減っているようですが、それでも海上自衛隊で10倍、航空自衛隊で30倍とかなりの高倍率となっており、航空自衛隊航空学生の女子に至っては230倍という高倍率を記録したことも。

ただし、航空学生になれたからといって必ずしもパイロットになれるとは限りません。

身体的・技術的な適性不足から地上勤務に回されることもありますが、その場合も本人が希望すれば自衛隊に在籍し続けることが出来ます。

航空学生卒業後のキャリアですが、航空学生出身者は若くして幹部に任官するにもかかわらず、昇任はそれほど早くもないため、ほとんどの人は2佐か1佐で定年を迎えるようです。

『とにかく早く昇任して自衛隊のトップを目指したい!』という人には不向きなコースですが、逆に言えば『それほど昇任はしたくないけどいつまでも空を飛んでいたい!』という人にはお勧めできるかもしれません。

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