航空自衛隊のお仕事色々:エンジン整備員

自衛隊の思い出
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航空自衛官=パイロットというイメージを持っている人が多いですが、実は航空自衛隊でもパイロットなのはほんの一握り、実際のところはパイロット以外の仕事をする人が圧倒的に多いのが現実です。

航空自衛隊のパイロット以外の仕事について『どんなことをしているのか?』『どのようにしてなるのか?』『どこで仕事をしているのか?』を紹介していきます。

今回はエンジン整備員について。

Table of Contents

航空機整備職域について

エンジン整備員の話をする前にまずは航空業界と航空自衛隊の整備員の構成について説明しましょう。

整備員といっても航空業界の場合は担当が細分化されているので色々な人たちがいます。

エアラインの整備だと大まかに

  • ライン:エプロン地区での運行期間中の機体の点検・整備(飛行前点検やA整備くらいまで?)
  • ドック:格納庫内で運行を停止して行う機体の点検・整備(C整備や大規模改修?)
  • 工場:エンジンや無線機、機内エンタメシステムなどの搭載装備品の整備

の3つくらいに分かれるんでしたっけ?

航空自衛隊の航空機整備はさらに細分化され…

  • 航空機整備(APG):機体全体の整備(列線(ライン)とドックの2つに分かれてる)
  • エンジン整備(ENG):エンジンと関連機器類の整備
  • 電機整備(ELEC):発電機や機内配線などの電機機器類の整備
  • 計器整備(INST):計器やセンサー類の整備
  • 油圧整備(HYD):油圧機器類の整備
  • 構造修理(ACR):機体構造の修理や加工、改修などの整備
  • 救命装備品整備(PAR):パラシュートやサバイバルキットの整備
  • 武器弾薬整備(ARM):ミサイルや防護装置などの火工品の組み立て、搭載に必要なシステムの整備
  • 機上電子整備(RDR) :火気管制装置やレーダー機器類等の整備
  • 機上無線整備(CNI):無線通信機器や航法装置等の整備

とまぁ大体こんな感じになっていて大体この細分化された職種ごとに事務所や作業場が分かれています。

エンジン整備員の仕事

このように航空機整備には機体本体の整備員だけでなく、搭載装備品ごとに専門の整備員がいるわけですが、エンジン整備員は名前の通り航空機に搭載されているエンジンの整備を専門に行います。

具体的には

  • 機体に搭載されている状態での定期的なエンジンの点検・整備
  • エンジン関連のトラブルが発生した時の修理
  • エンジンの取り外し・取り付け
  • 機体から取り外されたエンジンの点検・整備や改修などの重整備
  • 整備後のエンジン単体での台上試運転
  • 機体に搭載後や整備後の試運転

などを行います。

基本的にはメインエンジンの整備のみですが、補助動力装置(APUやJFS)やスラストリバーサーといったエンジンに関連する装備品の整備も作業もエンジン整備員の担当。

普段は航空基地のエンジン整備格納庫で取り外されたエンジンの重整備をしていますが、機体の定期点検や故障修理、エンジン交換のために格納庫で作業するといった感じで、基本的には屋内の作業がメインなものの稀に真夏の炎天下や真冬の雪の中といった過酷な環境で作業することも…。

機体に搭載した状態でのエンジンの試運転もエンジン整備員の担当領域で、状況によっては故障したエンジンのトラブルシューティングのためにぶっ壊れたエンジンの全運転領域を試験するなんてスリリングな仕事もあったりします。

エンジンの試運転が出来るのはパイロットと航空機整備員に加えて、エンジン整備員にしか出来ないという割とレアな業務なんですが、エンジン停止状態から最大出力まで際限なくエンジンを回せるのは恐らくパイロットとエンジン整備員だけでしょうね。

勤務先

航空機のエンジンを整備する仕事のため基本的には勤務先は航空基地に限定されます。

一部ロジスティック系の業務に従事するという隊員もいるため、補給処という補用部品の管理や使用統制を行う部門に配属されることもありますが、全体から見ればほんの数%といったところ。

後はエンジン整備員を養成するための航空自衛隊の中の学校である第1術科学校の教官ポスト。

とはいえこれらの機関や学校は航空基地に併設されているため航空基地以外には基本的には配置されないと思って間違いはありません。

これ以外の基地に行くためには航空機に関わらない職域に転換するか地方協力本部での広報官業務を志願するしかないでしょうね。

とはいえごく一部の基地を除いて航空自衛隊の航空基地は地方にあるものの比較的市街地に近いため、僻地手当てが出つようなとんでもない田舎に行くというようなことはまずありません。

 

エンジン整備員になるには

エンジン整備員は空曹士の特技区分なので、エンジン整備員になるためには自衛官候補生や一般曹候補生として航空自衛隊に入隊する必要があります。

教育隊修了は第1術科学校の基礎工術課程を経て初級または中級エンジン整備員課程に入校し、部隊配置後のOJTを経て修了試験に合格すれば正式にエンジン整備員として認定されます。

エンジン整備員になるために航空自衛隊にゅたい前に取得しておく必要のある資格は特にありません。

どうしてもエンジン整備員になりたいというのであればひたすら教育隊の班長にアピールするしかないでしょうね。

いくら本人の希望が強くても部隊側のニーズが無ければ希望の職種にはなれないものですが、エンジン整備員は整備員の中でもかなりの人数がいるため毎年かなりの人数の募集がかかります。

そこまで要求される適性も無かったと思うので、よほど機密事項の取り扱いが出来ないというような人でもなければ希望通りにエンジン整備員になれるのではないでしょうか?

どんな人がエンジン整備員に向いている?

航空自衛隊としてどのような人をエンジン整備員に選定していたかが定かではないので、エンジン整備員として先輩や同僚、後輩を見た時のイメージで言うと…。

細かい所や手の入らないような場所での作業が多いので手先の器用さが要求されることが多いのでまずは『手先の器用さ』が要求されます。

これに加えて直接的に見えない場所で作業するのに必要な『想像力』。

F-4のエンジンベイ ここにエンジンが隙間なく収まる(出典:wikipedia)

最近のジェットエンジンも車のエンジンと同じく電子制御化されてきていますが、昔はアナログ全盛の“電子油圧機械制御方式”というものだったため、故障探求するときはマニュアルに書かれた燃料や潤滑油のスケマチックを見ながら現物の配管をなぞり、系統内の流体の振る舞いを想像しながら故障の原因を探したりしたものです。

最近はこれが電子機器の配線図やロジック図に変わっているんでしょうが、やることは変わらないので相変わらず『想像力』は重要でしょうね。

もう一つ想像力にも関係してきますが、工業用の内視鏡を使ってエンジン内部の点検もするため、エンジンの断面図を見て3次元的な空間をイメージ出来る『空間認識能力』が高いと仕事がしやすい。

それとこのような作業を続けるための『根気』と『探求心』に加えて最短距離で物事を解決するための『合理性』というのが必要な要素でしょうか?

エンジン整備の思い出

エンジン整備は何もなければ定期的な整備しかないので割と気楽な職場ではあるんですが、機齢の古い戦闘機を運用する航空団にいると飛ぶたびにどこかトラブルが発生するので大変でしたね。

特にF-4とか…。

F-4に搭載されていたJ79エンジン(出典:wikipedia)

F-4に搭載しているJ79というエンジンは航空機用ガスタービンエンジンの基本的な要素がすべて詰まっているエンジン。

私が配属されていた基地はF-4を導入時から運用してきた基地だったため、整備ノウハウが蓄積されていている上、先輩方も“J79の神様”と呼ばれるほどに構造や機能を知り尽くした人ばかり。

私が配属されたころにはすでに殆どのトラブルが出尽くしていたこともありトラブルシュートの方法が確立されているという状態でしたが、基本設計が古い上に運用開始から時間も経っているため経年劣化による故障も多く、最悪エンジンをかけれるとどこかが壊れるなんてことも稀にあったりしました。

そういった時にもどうにかこうにか修理することが出来たのは、神様たちから普段の整備作業やトラブルへの対応時にJ79の各システム、トラブル発生の理屈、トラブルシュートの勘所などを叩きこまれていたからでしょうね。

J79はガスタービンエンジンの基礎的なところをすべて押さえていたので、ここで積み上げた経験は意外と他の機種でも役に立つことが多かったように思います。

おかげで別の基地に異動して機種転換のための教育を受けても、あまり悩んだり混乱することもなく、割とすんなりとなじむことが出来たような気がしますね。

そう思えば新人の頃から術科学校の上級課程を終えるまでJ79に携わることが出来たのは大変だったこともありますが、整備員のキャリアとして考えると幸運なことでした。

また、J79以外にもF-15に搭載されているF100エンジンの整備にも携わっていましたが、当時は運用開始から30年近くたつにもかかわらずトラブルシュートマニュアルが完璧ではなく、原因を推測して他の装備品の整備員と議論しながら対応するということもままありました。

F-15搭載のF100エンジン(出典:wikipedia)

基本的にはマニュアル通りに修理しないといけないんですが、マニュアル通りに作業しても治らないということがたまにあるんですよ…。

なのでマニュアル記載に記載されたシステムの系統図を見ながらエンジンの色々な場所に計測機器を取り付けてデータを取りつつ、あーでもないこーでもないと議論して原因を探り、それでもダメなのでF100エンジンのライセンス生産をしているIHIと連絡を取りながらマニュアルにまだ記載されていない整備方法を確立、次のためにマニュアルを改定していく、というようなこともありました。

エンジン単体だけではなく機体システムのことについてもそれなりに詳しくならないといけないので、エンジン整備だけでなく電機整備やAPGの従特技を取得する人も結構いましたね。

ジェットエンジンというのは単体で航空機を構成するすべてのシステムを網羅しているので、長く色々とやっていると他の職種の担当する作業やシステムにも自然に詳しくなっていくんですよ。

また、先輩の中には『エンジン整備でランナップするんだから飛行機飛ばせなきゃおかしい』といって自家用機の免許を取得した猛者が何人かいますが、まぁ確かに長くやってるランナップ中のふとした瞬間に「あれ?このまま飛べるんじゃない?」なんてことを考えたりすることもありましたね。

実際フライト出来るだけの知識があるとトラブルシューティングに役に立ったりしますし。

フライトシムが結構いい勉強になったりするので、趣味がフライトシミュレーターという人もいたりします。

そういえば結構多趣味な人が多かったですね。

自衛官の趣味というとパチンコや麻雀といったギャンブルが相場なんですが、意外とギャンブルを趣味とする人が少なく、仕事の延長線上でラジコンや模型や革細工のような工作系の趣味、キャンプやトレッキング、サーフィンといったアウトドア系の趣味を持つという人が多かった記憶があります。

しかもみんな1つだけでなく複数の趣味を持っていることが多かったですね。

まとめ

エンジン整備員は空曹士の特技なので、エンジン整備員になりたい場合は自衛官候補生か一般曹候補生として航空自衛隊に入隊する必要があります。

仕事の内容は名前の通り航空機に搭載されたジェットエンジンと関連する装備品の整備で、メインエンジン以外にもエンジンに関連する装備品の整備やエンジンの試運転など。

整備員なので手先の器用さが要求される他、手元が見えない状態での作業が多いので想像力や空間認識力、複雑なシステムを理解するための探求心や、最短距離で問題解決をするための合理性といったものが必要になる特技ではないでしょうか?

エンジン整備という仕事自体がマイナーなので入隊前から『エンジン整備をやりたい』と希望するという人はまずいませんが、航空自衛隊へ入隊を考えている人は『こんな仕事も有るんだな~』くらいに覚えておいてもらえると職種選択の参考になるかもしれません。

そうではない人は記憶の片隅に置いてもらえると航空祭でいつもと違うものの見方が出来るかも?

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