自衛隊内の職業訓練(曹士隊員編)

自衛隊の思い出

自衛隊にいたころの記憶をたどりながら役に立つのか立たないのかよくわからないことを書き留めるシリーズ。

今回は教育隊卒業後の職種別の教育をする術科学校のお話し。

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職種別の専門学校

自衛隊に入隊するとまず初めに行くことになるのが教育隊や幹部候補生学校といった教育部隊ですが、ここでは『とりあえず部隊に配属されても自衛官として最低限のことが出来る程度』の基礎的かつ自衛官として必要となる共通の知識事項の教育をするだけで、職種別の専門教育は基本的には行われません。

これは航空自衛隊に限った話ではなく陸上や海上も同じで、基礎教育課程の終了後は職種別の学校に行くことになります。

陸上自衛隊の場合

陸上自衛隊の場合は“施設学校”とか“武器学校”のように職種や職域の名前を冠した学校があります。この辺りは何の教育を担当しているかわかりやすいですが、学校の中には“富士学校”や“小平学校”のように学校の所在する土地の地名を冠した学校もあり、こちらは陸上自衛隊以外の自衛官には何をしているかピンときませんね…。ちなみに富士学校は普通科(歩兵)・特科(野戦砲)・機甲科(戦車)要員の教育とこれら諸職種連合作戦の運用方法を、小平学校は人事やシステム、会計、警務(諸外国の憲兵)、法務要員の養成を行っているそうですが、このように地名がついている学校は複数の職種の要員を養成する学校になっているようですね。

海上自衛隊の場合

海上自衛隊と第1~4までの術科学校が有りますが校名がナンバーとなっているのでどの学校が何を担当しているかいまいちわかりづらい…。

Wikipediaなんかで調べてみると…。

第1術科学校:船舶の機関以外の部分の運用について教育して船舶の運航要員を養成する(江田島)

第2術科学校:機関や電気、工作員といった船舶の機関や構造の整備要員の養成(横須賀)

第3術科学校:海上自衛隊保有の航空機や航空基地の設備の保守管理要員のの養成(下総)

第4術科学校:経理や補給、給養などの後方支援要員の養成(舞鶴)

という感じに分かれているみたいですね。

航空自衛隊の場合

航空自衛隊も海上自衛隊と同じく術科学校の名称はナンバーになっているので分かりづらいです…。

現役当時の記憶やWikipediaの情報を纏めると…

第1術科学校:航空機、航空・警戒管制用機材、基地防空火器や高射ミサイルの運用・整備要員の養成(浜松)

第3術科学校:補給、警備、給養、施設要員の養成(芦屋)

第4術科学校:通信機材の運用・整備、気象観測用機材の運用・整備要員の養成(熊谷)

第5術科学校:航空管制・警戒管制要員の養成

というような感じ。

私が現役のころには第2術科学校が有り、ここでは今の第1術科学校の担当している航空機整備以外の分野の教育を担当していましたがいつの間にやら統合されたようで…。

職種別の教育

ここからは航空自衛隊における教育隊卒業後の大まかな職種に関する教育の流れを、私の体験をもとに書いてみたいと思います。

整備員としての基礎教育『基本工術課程』

それぞれの術科学校には上記のように様々な職種別の専門コースがあり、当時の新隊員課程と曹候補士は“ベーシック”と呼ばれる各職種別の初級課程、曹候補学生と生徒基礎課程修了者は“ミドル”と呼ばれる中級課程へ入校していました。

今の制度だと自衛官候補生課程修了者はベーシック、一般曹候補生がミドルといった分け方になるんですかね?

ベーシックとミドルの違いですが、たしか基本的に教育内容は同じで履修期間はミドルの方が長く、ベーシックよりも少しだけ深い内容の教育を受けていたような気がします。私は航空機整備職域のエンジン整備員を拝命したので教育課程修了後に浜松基地にある第1術科学校にて、まずは航空機整備員としての基礎的な教育を受けることになりました。

ベーシックとミドルのどちらのコースも教育対象となる隊員は教育隊を出たばかりで、自分の担当する職種について全くと言って知識がありません。

術科学校側もそのつもりで教育を施すので、この段階では自分が拝命された仕事に関する知識はほぼ不要。

航空機整備職域の学生はまず“基礎工術課程”というコースに入り、航空機整備員としての基礎的な知識や工具の使い方についての教育を受けます。

座学では整備員としてのマナーや航空力学の基礎的な内容を、例えば『いくら暗くてもガスの充満したところで明かりをとるのにライターを使ってはいけない』といったレベルの話や、航空機整備に関連する規則についての講義を受けます。

実技では工具一つ一つの名前や使い方、ボルトやナットの呼び名、ドライバーの回し方やボルトやナットの回り止めに使う安全線の巻き方などを実習します。

安全線(ワイヤロック)を綺麗に架けるのがなかなか難しい…

職種別の基礎教育

基礎工術課程が終わると次は同じ第1術科学校にある各職種別の専門課程に進みます。

私の場合は“中級エンジン整備員課程”に入り、航空機用エンジンの構造や基本的な整備方法、関連規則などの教育を受けました。

全く希望していない職種になってしまい座学は全然面白くはなかったですが、実習は楽しかったですね!

教材用に配備されているエンジン(部隊で使用不能になった廃品を寄せ集めた非稼働エンジン)の分解やT-4練習機での地上試運転などの実習で多少はエンジンに興味を持つことが出来ました。

整備実習の教材となっていたエンジンの同型機(TF40-IHI-801A)※出典:wikipedia

私の入校した頃はジェットエンジン整備員とレシプロエンジン整備員が統合された辺りだったため両方のエンジンについて勉強しましたが、当時はレシプロエンジンを搭載したT-3初等練習機がまだ現役ではあったものの、実際にエンジン定期検査やオーバーホール作業はすべて富士重工の関連会社に委託していたため、航空自衛隊として作業をすることも無いような状態。

それでも教育課程のカリキュラムにはレシプロエンジンの整備実習が残っていたため、T-3に搭載されていたライカミング製のIGSOというエンジンの分解・組み立ての実習がありました。

このIGSOというエンジンは排気量が9,000㏄と大型トラック並み。

水平対向6気筒なので1気筒あたりの排気量は約1,500㏄だったかな?

1気筒だけで普通車や大型バイク並みの排気量になるんですが、ここまでのサイズになるとピストンやシリンダーがバカみたいにデカい!

確かピストン単体でも数キロくらいの重さがあったと思います。

このサイズともなると組付けも大変で、シリンダーを取り付けるのにクランクシャフトを回してピストンの位置合わせをするのも一苦労。

最初の2つ3つは別に問題なく取り付けられるんですが、それ以降は既に取り付けられているピストンとシリンダーがクランクシャフトの回転抵抗になるためとてもじゃないけど手では回らない…。

各シリンダーについている排気バルブを治具で解放させてデコンプ状態にしてやりたいけれどバルブを閉め側に拘束するためのリターンスプリングがとんでもなく固い…。

教科書を片手にみんなで苦労してどうにか組み立てましたが、そんな苦労をしても結局退職するまでの間部隊で整備レシプロエンジンも無く…。

なんて思って卒業したら、配属先で草刈り機用のエンジンの整備をすることもあり結果的にはこの時の教育は無駄にはなりませんでした。

部隊での教育

ベーシックまたはミドルのコースを終了すると実戦部隊に配備され、ここでOJTを受けながら知識と技能を向上させます。

OJTの期間はおおむね1年間といったところで、この間にOJT教官の指導を受けながら実際に整備作業に従事して知識と技能を向上させていく。

という事になっていますが実態は部隊によってまちまちで…。

もちろんOJTの訓練シラバスに則って手取り足取り先輩から手厚く指導を受けられるという部隊もあれば、書類上はOJT訓練を受けていることになっているものの訓練実態はほぼ無いような部隊もあったりしますね。

いずれにせよOJT学生の作業は間違いなく先輩方や分隊長(作業班の長)、さらには完成検査員の確認を経ているので安全上は問題ないですし、OJT教官以外からの厳しい指導が入ったりもするので“全く持って訓練実態が無い”なんてことにはなっていないはず…。

OJTの期間が終わると筆記試験を受け、合格すれば航空自衛隊の整備士としての認定を受けます。

整備士資格を取得すると規則上は上級者の指揮監督の元で拝命された職種に関わるあらゆる整備作業をすることが出来るということになります。

とはいえまだまだ配属されて1年程度なので出来る作業はOJTの頃とそう変わらないわけですが。

職種別の上級教育

一般曹候補生は3曹へ昇任したおおよそ2年後、それ以外の隊員は3曹へ昇任して空曹候補者課程の修了後に“アドバンス”と呼ばれる上級課程に進み、エンジン整備員の場合はここで航空機用ガスタービンエンジンの基礎理論や航空力学、航空機の構造、素材に関する基礎知識、航空自衛隊の整備に関連する各種の関連規則などを学ぶことになります。

離陸上昇中にアフターバーナーの異常燃焼が発生したら? ※出典:wikipedia

具体的には現代の戦闘機用ジェットエンジンの燃料制御系統についての研究発表や、運用中に発生したエンジントラブルの故障探求方法や原因特定についての机上演習など。

アドバンス入校前に部隊で散々経験を積んではいるものの、基礎理論なしに経験則に基づいた方法で系統の理解や故障探求を行っていたため目から鱗の落ちることが多々ありました。

まぁ単純に不勉強なだけだったわけですが、航空機整備は原則的にマニュアルに示された作業以外してはならないことになっているので自分勝手な判断で作業は出来ませんからね。

ともすればトラブルの原因を考えることも無く、トラブルシュートのマニュアルに書かれた通りの部品交換しか出来ない“チェンジマン”になりがち…。

部隊ではなかなか基礎理論まで突き詰めて勉強する時間も取れないですし、基礎理論と実運用の違いもありますからね。

こういう機会でもないとガスタービンエンジンやプロペラの基礎理論や、所属する部隊で運用していない機種についての見識を得ることは出来ないのでいい経験を積むことが出来たと思います。

アドバンス課程を卒業したら再び所属先の部隊でOJTを受け、OJT後の筆記試験に合格すれば職種にかかわる教育は一通り終了。

これで晴れて一人前の整備員として認められます。

教育にかかる期間は職種や本人の昇任スピード、術科学校のコースの空き状況によって大きく異なるので何とも言えませんが、最短で教育隊卒業から5年程度といったところでしょうか?

所属部隊でのスキルアップ教育

アドバンス課程を修了してOJTを受け、筆記試験に合格すれば一人前となりますが、職種によってはさらに経験を積んでいくつかの部内資格を取得する必要があります。

航空機整備員とエンジン整備員の場合は地上試運転やテストセルと言われるジェットエンジンの性能試験装置でのエンジン試運転のためのライセンスを取得してようやく1人前として認められるという感じですかね。

この資格を取得するためにもOJTがあり、一定期間OJT教官の監督指導を受けながら実地で規定回数以上の試運転を行い、これに並行してエンジンスタート時の各種パラメータ諸元や緊急事態発生時の対処方法の確認、トラブルシューティングの手順なんかを学習し、最後の仕上げの訓練としてシミュレーターでの総合訓練が行われます。

シミュレーターでの訓練と言っても飛行機を飛ばすけではなく、試運転中に発生するであろうトラブルを片っ端から再現させて体験させるというもの。

スタートシーケンスの途中で火災が発生したり、試運転中にエンジンオイルが漏れだしたり、APUが爆発炎上したりと実機ではまず体験できないような事を色々と体験できるので勉強になるんですが、当時はそんな余裕もありませんでしたね…。

ちなみに試運転のライセンスは機種別にあるので、他機種を運用する部隊にいたりすると所属する全機種のライセンスを取得する必要があります。

私も一時期F-15、F-4、T-4と3機種のライセンスを持っていました。

能力拡大

アドバンス課程修了後は部隊の特色や要求に合わせて各種の教育訓練を受けますが、必要に応じて術科学校で専門的な教育を受けます。

私の場合は航空自衛隊内での工業用エックス線検査作業員の部内資格を得るために第1術科学校の非破壊検査課程に入校したり、米軍との仕事のために第5術科学校の英語課程に入校したりと、アドバンス修了後も術科学校には結構お世話になってますね。

これ以外にも航空自衛隊で新しい機材を取得した場合なんかは取得の規模にもよりますが術科学校で“機種転換課程”と呼ばれる機種別の専門的な教育行う課程が開設されることがあります。

機種転換課程が開設されるのはほとんどの場合は“大規模に導入されて様々な基地に展開される”装備品で、ほとんどが戦闘機や練習機に関わるものでしょうね。

それ以外の機材の場合は配備されている部隊で機種転換課程とOJTが実施されます。

何度も部隊と術科学校を行ったり来たりするのも面倒ではあるんですが、教育隊の同期や何かのイベントで一緒になった人と再会できたりするので結構楽しみでしたし、入校することでまた新たな人脈を作ると仕事がスムーズになるので個人的には入校はそんなに嫌いではありませんでしたね。

一応勉強しに行ってはいるんですが部隊と比べると時間的にかなり余裕があるため半分くらいは遊びに行っているような感覚でしたが…。

これらの課程は本人の希望や部隊のニーズによって入校することになりますが、人が少なく忙しい部隊だと本人の希望だけではなかなかいかせてもらえない傾向があります。

逆に部隊側のニーズが強ければどんなに本人の希望に関係なく強制的に入校させられます…。

まとめ

陸海空どの自衛隊でも教育隊では基礎的な教育しか行わないので、部隊配属後の職種に関する教育は教育隊とは別のところで施されます。

どの自衛隊でも教育は段階的に施されますが、航空自衛隊の場合を例にとると

教育隊 → 術科学校(初級または中級課程)→ 部隊(OJT)→ 術科学校(上級課程)→ 部隊(OJT)

という感じで、術科学校と部隊を行き来しながら徐々に技能と見識を養っていきます。

上級課程修了後も術科学校に設置された各種課程を本人の希望や部隊の要求に応じて履修し、さらに能力を向上していくといった感じです。

部隊と術科学校を行ったり来たりするので面倒ではありますが、人脈と見識を広げるいい機会になると思うので若手のうちに進んで入校したほうがいいでしょうね。

うっかり結婚して家庭を持ってからだと入校したときのお小遣いの捻出に苦労するみたいですよ。

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