私が自衛隊にいたころの思い出がこれから入隊する人や興味のある人たちの役にたてばいいなと思いつつアップしてるこのシリーズ。
今回は衣食住の“住”にスポットを当ててみたいと思います。
ちなみに私がいたのは航空自衛隊ですので陸上自衛隊と海上自衛隊とは様子が違うかもしれません。
制度についても私の在隊時から変化しているかもしれませんので話半分くらいに読んでください。
指定された場所に居住する義務
自衛官は災害や戦争の危険がある、またこれらが起きそうな時にはいついかなる時であっても速やかに出動しなければいけません。
そのため自衛官には『指定された場所に居住する義務』というのがあります。
これは自衛隊法施行規則の第五十一条に『陸曹長又は空曹長以下の自衛官は、防衛大臣の指定する集団的居住場所(以下「営舎」という。)に居住しなければならない。』と謳われているためです。
この条文を見ると『海上自衛官は?』とか『准尉以上の人は?』と疑問に思うかもしれませんがその辺はまた後程。
この規則があるため駐屯地や基地内には生活用の住居として『営舎』というものが設置されているわけですが、わかりやすく言うと独身寮ですね。
規則上はこの独身寮を『営舎』と呼んでいますが自衛官同士の普段の会話でも『営舎』という言葉が出ることは無く、建物のことを『隊舎』、居住スペースを『営内(えいない)』、居住している隊員で構成されたグループを『内務班(ないむはん)』、居住している隊員を『営内者(えいないしゃ)』と呼んでいます。
自衛隊の独身寮『隊舎』の構成
営内者の住む隊舎にはおおよそ次のような部屋で構成されています。
居住スペース(居室)
「居室」は病院の大部屋のカーテンを取っ払ったような感じの部屋をイメージしてもらえば大体正解。
1つの部屋で大体4~6人くらいが共同生活しますが、病院にあるようなカーテンはないのでプライバシーはありません。

居室には隊員一人につきベッドや毛布などの寝具類が1セット、制服や私服を入れておく「被服ロッカー」と呼ばれるものが1台、現金や通帳などをしまっておくための「貴重品ロッカー」が1台置かれています。
部隊によってはこれに加えて個人の机があったりなかったり。
冷暖房完備とはなってますが、集中制御式なのでエアコンみたいにきめ細やかな空調とはなってません。
『夏は凍えるほど寒く、冬はうだる程暑い』くらいに空調装置の性能が良い部屋か『テントよりはマシ』なくらいにしか効かない部屋しかありませんでした。
シャワー室
基本的には隊員浴場があるので入浴はそちらに行くのですが、シフト勤務や残業などで隊員浴場に入れないときには隊舎に備え付けられているシャワーを使用することが出来ます。
大体1つの階に3つか4つのユニットシャワーが設置されていますが明らかに設置台数が少ないような気がします。
女性自衛官向けの隊員浴場がない基地や駐屯地では女性自衛官の隊舎にお風呂が設置されているそうですね。
洗濯室・乾燥室
こちらはシャワーより多くて1つの階に大体5~7台くらいですがやっぱり住んでいる人数に対して少ないような気がしました。
基本的には全自動洗濯機が置かれているんですが、たまに二槽式の洗濯機が1台だけ設置されていたりすることもありましたね。
教育隊では戦闘訓練などで作業服がすぐ汚れるため洗濯機の争奪戦になるのですが、流し台と洗濯板も設置されているので、教育隊の時は洗濯板を使うこともありました。
洗濯物は洗濯室の隣にある乾燥室(自衛隊用語で物干場(ぶっかんば)といいます)か、隊舎の屋上自衛隊ある物干し台に干します。
娯楽室
営内者同士のコミュニケーションを図るために設置された談話室兼会議室のような感じの部屋です。
下の画像のように畳敷きの部屋もありますがほとんどは普通の居室と同じ構造でリノリウム張りの床になっていました。

部隊によっては隊員有志の購入した全自動麻雀卓が置かれていたり、営内者でお金を出し合って定期購読している新聞や週刊誌が置かれていたりすることもあります。
あまり大きな声では言えませんが宴会場になったり、後輩を説教して締め上げる部屋になってましたね。
予算削減で隊舎の定数が減らされ、居室に余裕がない部隊が多いので、最近は娯楽室を居室に転用しているところも多いのではないでしょうか?
調理室
調理室となっていはいますが規模的には給湯室程度で本格的に料理するには色々と足りない感じ。
大体ここに冷蔵庫が置かれていて、営内者の買ってきたおやつや弁当などが保管されていますが、たまにリスみたいに『しまったことを忘れる奴』がいて冷蔵庫が悲惨なことに…。
食事は隊員食堂で食べられますし、最近は基地の売店にコンビニが入るようになったので、調理室はカップラーメンを作るためのお湯を沸かすのに使うくらいですかね?
ちなみに女性自衛官の隊舎の場合はもう少しちゃんとしたキッチンがあるという噂を聞いたことがあるのですが、実際どうなんですか?
その他の部屋
上記以外にもトイレや、営内者の私物をしまっておくための倉庫、部隊によっては資格試験や昇任試験対策のための勉強部屋が設置されている隊舎もあります。
教育隊はこれらの部屋に加えて中隊長以下の執務する事務室や学生隊長の執務室、管理部門の事務室、当直室等が設置されるという感じですかね?
階級や役職で住むところが変わる?
営内者
隊舎に居住するのは『指定された場所に居住する義務』のある陸・空曹長以下の隊員と規則で決められていますが、航空自衛隊の場合『独身で29歳以下かつ3曹以下の隊員』がこの規則に該当することになります。
この『独身で29歳以下かつ3曹以下の隊員』というのも明文化されているものではなく暗黙の了解のような物。
部隊を指揮する隊長や古参の先任空曹によって文面の捉え方が違うため、2曹に昇進して30歳を超えても結婚しない限り営外居住の許可が出なかったり、逆に2曹に昇進して30歳を迎えたら営外に追い出されたなんて話も…。
私の場合は2曹に昇進して30歳を超えたあたりから『早く結婚して内務班から出ろ!』と上司から圧力をかけられ、終いには『30超えて結婚できない奴は人間的に問題がある』とまで言われ、そこから発展して暗に退職を勧められました…。
大昔は規則を文面通りに運用していたので定年間際の既婚者の曹長であっても営内者。
そのため家族と会えるのは週末の一晩だけ(半ドンがあった時代)の通い婚状態だったそうで。
ちなみに既婚者でも単身赴任の場合は営内者となるはずなんですが、本人の希望次第という謎のルール。
単身赴任者はいずれ元の任地に返さなければいけませんが、基地の外に住んで家族を呼び寄せてくれれば単身赴任が解消されて返す必要が無くなりますからね。
なので単身赴任は積極的に基地の外に住わませていたような記憶があります。
営外者
自衛隊では基地や駐屯地の外を『営外』と言い、営外に住む隊員の事を『営外者』と呼んで営内者と区別しています。
“営外に出る=基地の外で生活する”ためには
・結婚や育児、介護のために基地の外に住む必要がある
・その他特別な事情があると認められた場合
といった条件があり、この条件を満たした隊員が営舎外居住の申請をする必要があります。
じゃあ“既婚者の新隊員”どうなるのか?
今はどうなったかわかりませんが、私が現役だった頃は『入隊後最低3年間は既婚者でも営内に居住させる』というルールになっていました。
「社会人としての常識を養うために営内に居住させる」なんて理由からなんですが、社会の常識からかけ離れた組織が一体何を言っているんだか…。
しかも営内は社会からある意味隔絶されてるような場所で社会常識のいったい何を学べというのか?
それじゃあ社会人経験のある新隊員が既婚者だった場合はどうなるのさ?
実際こういう質問を上司にぶつけたところ『自衛官としての躾をしないといけないから』と返されましたが、その返しは教育隊の教育を全否定することになるけど…。
まぁ航空自衛隊は昔から『勇猛果敢・支離滅裂』なんて言われてますからね。
規則の制定が拙速で整合性が無いのが当たり前。
そもそもこのルールを制定したのは営内経験のない幹部と若くして営外に出た空曹で、内務班にほとんど顔を出すことも無いので実情を殆ど知らない…。
既婚者は良いとして“新隊員の親御さんがそろって要介護状態になった場合”はどうするのか?
その場合も3年間営内者とするんですかね?
幹部自衛官
指定されてた場所に居住する義務があるのは陸・空曹長以下の自衛官となっていますが、じゃあ准尉以上の階級の幹部自衛官隊員はどうなっているかというと『指定された場所に居住する義務』がないので彼らは基地内に住む必要がありません。
なぜ彼らに『指定された場所に居住する義務』が無いのか?
過去に上司や先輩に聞いたことがありますが、帰ってきた答えは『偉いから』…。
『幹部には職務に専念する義務と責任があるから一朝事あらばどこに住んでいようと必ず職場に行くものだ』なんて言う人もいましたが、それは曹長以下の隊員も同じ事。
納得のいく答えは誰も返してはくれませんでしたが、おそらく旧軍や諸外国の軍に倣ってのことでしょうね。
徴兵制のあった時代や国で兵隊の脱走を防ぐために制定された規則がそのまま今も残っているというだけなんじゃないでしょうか?
幹部自衛官は指定された場所に居住する義務は無いものの、逆に言えば教育課程中の学生以外は原則的に基地内に居住することが出来ません。
このため所属する基地の周辺の官舎やアパートに住むことになりますが、防衛省の本省のある市ヶ谷に勤務すると大変らしいですね…。
都内のアパートやマンションは高いので埼玉や千葉にある官舎に住むことが多いそうで、習志野あたりの官舎だと通勤に片道2時間くらいかかるとか。
激務で終電に間に合わないことも多々あるため、平日は自分のオフィスの床や廊下に段ボールを敷いて寝袋で仮眠し、週末だけ家族の待つ官舎に帰るなんて生活をしてる人がいました…。
ここまで来ると単身赴任と変わらないですし、いっそのこと開き直って平日は職場に寝泊まりして休日は都内のビジネスホテルに宿泊するという生活でもしたほうが良さそうな気がします。
基地の外に住めるのはいいけど…
営外者や幹部自衛官は基本的には基地周辺で出勤に支障がなければどこに住んでも問題はなかったと思いますが、部隊によっては『呼び出し後1時間以内に出勤できるような場所』と居住可能な範囲を定めているところもあるようです。
自衛隊の駐屯地や基地の周りには必ず官舎がありますが、あまり人気はないみたいですね。
『せっかく基地を出られたのに周りの家がみんな自衛隊なので営内にいるときとあまり感覚が変わらない』とか『うっかり隣が上司やお偉いさんだったら落ち着かない』とか、せっかく家に帰っても気が休まらないようです。
一般的なアパートやマンションのように営利目的で運営しているわけではないため家賃が格安なのが官舎の唯一といってもいいメリットなんですが、たまにこれに噛みつく面倒な人達が現れるのも困ったところ…。
確かに格安なんですが正直なところ値段相応だと思いますよ?
海上自衛隊は?
自衛隊法施行規則の居住場所についての条文には海上自衛官が出てきませんでしたが、護衛艦乗り組みの場合は艦内で寝泊まりしているので指定場所もへったくれも無いんでしょうね。
さすがに母港に停泊する場合や、長期間ドック入りして所属艦に居住出来ない場合もあるので、こういった場合に備えて下宿をとるのが旧海軍からの伝統のようです。
一方陸上勤務の海上自衛官の居住場所については陸空と同じ基準で運用されているようです。
自宅に住む
官舎や基地/駐屯地周辺のアパートに住む以外にも、マイホームを建てたり、分譲マンションを購入するという選択肢もあります。
というか家を建てることを推奨してますね。
組織としては『持ち家があればローンの返済や家族の事を考えてそうそう簡単に退職しないだろうしから、多少無理な人事異動も通しやすい』という思惑があるようで…。
高い買い物なのでそうそう簡単には決断できませんが自衛隊も公務員なので給料は安定していますからローンは通りやすいですし、防衛省生活協同組合という互助組織がハウスメーカーと提携して住宅とローンの販売をセットでやっていたりするので、普通のサラリーマンよりは家を買いやすいのかもしれません。
借家住まいよりも持ち家を勧める上司や先輩も多く、中には『ある程度の年齢になって持ち家が無いような奴は人間として問題がある』なんて不穏当なことを言い出す頭のおかしな幹部がいたりすることも…。
ライフプランに口を挟んで自分の理想を押し付ける連中はなんかアレなことになってくれないかなぁ…。
まとめ
かなり大雑把ですが自衛官の住んでいる隊舎や、駐屯地や基地の外に住む自衛官の住居について色々と思い出しながら書き出してみました。
残念ながら営内者の空曹で辞めてしまったので陸海の実情や営外生活、幹部の住居事情などは人から聞いた話がベースです。
参考程度に話四分の一くらいに読んでもらえれば幸いです。
色々と思い出してみても営内者の生活に懐かしさも郷愁も全く感じませんでしたね。
人生やり直すことになっても営内者にだけはならない様に努力すると思います。
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