飛行機のトリビア

フライトシム

飛行機の整備の仕事に携わってきた経験から、知ってるようで意外と知らない飛行機にまつわるトリビアをいくつかご紹介します。

今回は飛行機の左右にまつわるトリビアです。

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機長の座る席

一般的に旅客機の機長はコクピット(大型機はフライトデッキと呼ぶことが多いですが)の左側に座るようになっています。

飛行機は右側通行のため、上空ですれ違う場合に監視しやすいよう機長席が左側に設定されているのですが、実はこれ法律で機長が座る座席を規定しているわけではなく、国際的な慣例として「機長は左側に座る」となっているそうです。

パイロットじゃなくても機長になれる?

『じゃあコクピットの左側に座れば誰でも機長なの?』と思うかもしれませんが、そんな簡単な話ではありません。

民間機の場合だと事業用操縦士の免許を取得後、副操縦士として一定以上の経験を積んだパイロットに機長昇格のための訓練を受けさせ、最終的に機長への昇格試験に合格しないと機長としては認められません。

機長昇格のための訓練中は左の座席に座るそうですが、この場合でも実際の機長は『機長資格』を持ったパイロットになるそうですね。

軍用の大型機、例えば対潜哨戒機や早期警戒機などは、搭乗員の最先任者(階級が一番上で経験年数が一番長い人)が機長として任命されます。

ということで、軍用機の機長は“その飛行機を操縦するパイロットでは無い”どころか、“パイロットのライセンスすら持っていない”というのも別に珍しい話ではなく、機長がフライトデッキ(操縦席)にいないなんて場合も割とあったりするようです。

この場合は操縦の責任者を「運航機長」、ミッションの責任者を「作戦機長」というように呼び分けするようですね。

もちろん「運航機長」はパイロットのライセンス持っている人が任命されます。

ヘリコプターの機長は右側に座る

固定翼機は機長席が左ですが、ヘリコプターは反対に右になっています。

これは操縦装置と運動特性の違いが原因だそうです。

旅客機は機敏な動きを要求されないため、操縦桿はハンドルのような形状のヨークというものを使いますが、ヨークは基本的に両手で持つため利き手がどちらであろうとあまり操縦に影響はありません。

一方ヘリコプターの場合機敏な動きや精密な操作を要求されるため、棒状の操縦桿=スティックを使います。

ヘリコプターの場合は操縦席正面にスティック(サイクリック)、左側にスロットル(コレクティブ)という具合に操縦装置が配置されているわけですが、機器類の操作パネルは中央寄りに配置されているため、左の座席に座っているとこれらの機器を操作するために右手をサイクリックから離す必要があり、左側の席では操縦に専念できないことから、“右側の座席を機長席”としているそうです。

飛行機の左右の話

飛行機のドアは左右で大きさが違う!

実は旅客機のドアは左右でサイズと呼び名が違います。

これは船の習慣が取り入れられたから。

大昔の船は技術的な問題から舵が船尾の右側についてそうで、接岸/離岸するときに舵を岸壁にぶつけて壊さないよう船の左側を接岸するようにしていました。

ところが造船技術が発展して舵が船尾中央に取り付けられるようになった現代でも、昔からの習慣として船への人の乗り降りは左舷側から行い、海側の右舷から物資や燃料の搭載を行っています。

飛行機もこの慣習に倣い、左舷にボーディングブリッジやタラップを接続して人の乗り降りを、右舷からケータリングの食品類や消耗品を搬入するようになっていて、人が出入りする左舷のドアは「エントリードア」、資材の搬出入を行う右舷のドアは「サービスドア」と呼ばれています。

これなら旅客機が出発作業をする場合にも、左右のドアで用途を分けておけば人と資材が交錯することが無いため、効率的に作業が出来ますよね。

ちなみに乗客が乗り降りしやすいよう、エントリードアはサービスドアよりも若干大きく作られています。

船から飛行機へ

今も残る船の習慣の名残をもう一つ。

飛行機も船と同じく左側を「ポートサイド」右側を「スターボードサイド」と呼びます。

“ポート”はそのまま英語で港という意味ですね。

”スターボード”はノルド語や古英語が元になった言葉で「操作する舵」「操舵する」といった意味があるそうで、舵や櫂が船の右側についていたことに由来します。

というわけで左舷は「港側」右舷は「舵側」といった意味になりますね。

このほかにも機体の内側を「インボード」、外側を「アウトボード」と呼ぶのも船が由来。

そのまま内舷、外舷という意味です。

フライトデッキやカーゴデッキの“デッキ”という言葉も船の甲板からきていますね。

このように飛行機でよく使われる用語には、起源をたどると船の用語に行きつくものがたくさんあります。

騎兵隊と飛行機

飛行機の左側から乗客が乗り込むのは船の習慣が由来だという話をしましたが、実はもう1つ由来があります。

昔は人よりも機動性に勝る馬に乗って戦場の偵察をしていた騎兵科という軍種がありました。

しかし近代になり軍隊が機械化されていく過程で、騎兵という軍種は戦車や飛行機にとって代わられ騎兵科はあっという間に縮小されて行きます。

騎兵隊が無くなったからという理由で騎兵科に所属していた将兵たちをクビにするわけにもいかず、彼らは戦車乗りや飛行機乗りになっていくわけですが、元騎兵の飛行機乗りたちが乗馬の時の風習や習慣を飛行機に持ち込んでいるようです。

日本の古式馬術を除き、馬に乗る場合は左側から跨るというのが乗馬の世界的な慣習なのですが、これを最初期の飛行機でもやっていたようで、これが現代の“飛行機には左側から乗り込む”という習慣の元になっているという説もあります。

黎明期のアメリカ陸軍航空隊を見ると、コクピットに乗り込むためのステップが乗馬に使う鐙そのものだったり、パイロットの装備品に拍車があったり、飛行服が乗馬ズボンだったり、騎兵科の慣習や文化が色濃く残っていることが分かります。

飛行機のナンバリングは左から

今の旅客機は大体エンジンを2つ以上搭載していますが、このように左右で同一の部品がついている場合はL/H(レフトハンド、左手側)やR/H(ライトハンド、右手側)と呼ぶか、取り付け位置別にナンバーをつけて区別します。

基本的には左側から順番にNo.1、2、3…といった具合にナンバリングしていきます。

エンジンであれば左エンジンはNo.1エンジン、右エンジンはNo.2エンジンになります。

現代はエンジンを2つ搭載した旅客機が主流ですが、あまり右エンジンとか左エンジンという呼び方をしないのは3発機や4発機がいた頃の名残なんですかね?

エンジンスタートはどっちから?

旅客機が出発スポットから離れてエンジンをスタートする時は、大体右のエンジンからスタートすることが多いと思います。

折角ナンバリングしているのに何でNo.1エンジンである左エンジンではなく、No.2の右エンジンからスタートするのか?

エンジンには舵面やブレーキを作動するための油圧ポンプが取り付けられているのですが、始めにスタートするエンジンはメインギアのブレーキの油圧システムに接続されたポンプがついています。

もちろんエンジンが回っていないときにもブレーキが効くように、ブレーキ用の油圧を溜めておくアキュームレーター(蓄圧器)という装置が付いていますが、これは一時的に圧力を貯めておくだけのものなのでエンジンを切ってしばらくすると油圧が無くなってしまい、ブレーキが効かなくなります。

そのため先にブレーキ用の油圧システムのポンプがついているエンジンをスタートしておくことで、急に機体が動き出してもブレーキを掛けられるようにしている訳です。

ブレーキ系統の油圧を発生させるエンジンは、ボーイングが右側、エアバスが左側といった具合に機体メーカーによって違があるので、旅客機に乗ったときや、目の前で飛行機のエンジンがスタートするときにちょっと気を付けてみてください。

エンジンをかけるにも一苦労…

エンジンスタートは面倒…

レシプロ単発機なら車と同じでカギを捻るだけでエンジンがかかりますが、ジェット機はそうはいきません。

カギはないので手順を知っていれば誰でもエンジンをかけることができますが、その手順が多くて複雑です。

機体メーカーや機種によって異なりますが、共通する手順を大雑把にまとめると

  1. バッテリースイッチON
  2. 補助動力装置スタート
  3. 警報装置の作動点検
  4. 消火装置の作動点検
  5. メインエンジンのスタート

といった感じ。

実はこれでもエンジンをかけるだけの最低限の操作で、飛べるようにするには航法装置の立ち上げや現在位置の入力、搭載している各種システムの点検と設定など、手順が多くて煩雑でとてもじゃないですけど暗記できません。

整備後の地上試運転でエンジンをかけるだけでも、コクピットに乗り込んでからメインエンジンをスタートするまでに30分くらいかかった記憶があります。

チェックリストは必須アイテム!

エンジンスタートするだけでも結構な量の手順があるので、チェックリストは必須アイテムです。

下手に暗記すると思い込みから手順の間違いや手順の抜け漏れが発生するので、整備員だろうがパイロットだろうが必ずチェックリストを片手に仕事をします。

おおよその作業手順は覚えるように言われますが、手順をすべて暗記しろといわれることはまずありません。

メーカー指示や社内規定の更新などで割と頻繁にチェックリストが改定されるので、すべてを暗記するとかえってミスを誘発しますしね。

最近はコクピットのモニターにチェックリストを表示するタイプの飛行機が増えているのでこれからはチェックリストを持ち歩くこともなくなってくると思います。

思いついたトリビアを色々と書いてみましたがいかがでしょうか?

また思い付きで続編を作りますので、知りたいことがあればコメントお願いします。

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